作品概要
解説 (1)
執筆者 : 小崎 紘一
(793 文字)
更新日:2010年1月1日
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執筆者 : 小崎 紘一 (793 文字)
22歳を迎えたベートーヴェンはヴァルトシュタイン伯爵の「不断の勤勉によって受け取りたまえ、ハイドンの手からモーツァルトの精神を」というエールを胸に、1792年ヴィーンに活動の場を移す。ヴィーンの楽壇での彼のデヴューは作曲家ではなく、ピアニストとしてであった。数多くの貴族の寵愛を受け、ヴィーン中のホールを渡り歩きながら、対位法の大家アルプレヒツベルガー、ハイドンらの下で作曲の勉学に明け暮れた。
そうした駆け出しの新進作曲家ベートーヴェンが残したピアノ・ソナタである。この頃の彼はピアノ・ソナタを4楽章で構成している。前作である作品2の3曲から続く傾向であるが、これは前作を自信を持って発展させていると見ることができるだろう。のちの人生と時代と音楽の厳しさと相対するような響きはまだなく、ただ未来に思いを馳せる作曲家の姿が浮かぶ。
第1楽章は8分の6拍子のソナタ形式であるが、6拍子のスウィング感の代わりに楽章を通じてリズムの正確付けを与えられているのは左手の力強く疾走する打鍵である。右手の主題も明らかにリズムに導かれて変容している。まだ熟成された深みまで達していないが、非常に気品を感じさせる第2楽章、軽快で優しい第1部と三連の分散和音で埋め尽くされた中間部との音の厚みの対比が鮮やかな第3楽章を経て、第4楽章では卓越した発想のロンド。細かい音価で右手と左手の対話を編み上げていく。徐々に波が引いていくように静まっていくアルペジオが印象的に幕を閉じる。
この時期のピアノ作品はまだ緩慢さや誇張が見られ、未だ発展途上であるとする向きもある。吐き出したいだけ吐き出し、必要なものだけを残すという作業を彼が意識しだすには今しばらく待たなくてはならない。
発表当時「愛する女」という通り名がつけられていた。しかしこれは、彼のプライヴェートな話題というより、その音楽自体につけられたものであるという。
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