作品概要
解説 (1)
執筆者 : 朝山 奈津子
(1097 文字)
更新日:2007年6月20日
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執筆者 : 朝山 奈津子 (1097 文字)
1735年、バッハは『クラヴィーア練習曲集』第2巻を世に送り出した。二段鍵盤のために書かれたその第1曲が「イタリア趣味による nach italienischem Gusto」、こんにち通称《イタリア協奏曲》とよばれる作品である。
明朗快活な両端楽章と優美な緩徐楽章、急-緩-急の3楽章からなり、これら3つの冒頭の音型は明確な関連を持っている。
出版譜には強弱記号すなわち「f」と「p」が珍しくも書き込まれているが、これは楽器自体が出すべき音量を表すのではない。当時のコンチェルト・グロッソ(複数の演奏グループが交代ないし合奏しながら進む協奏曲)の慣習にならえばトゥッティとソロの転換を、二段鍵盤のチェンバロ上では鍵盤の変換を指示するものと捉えるべきである。それは、音量の変化というよりも音色の変化であり、近代的なピアノにおいてはチェンバロ以上に豊かな表現が可能である。この作品が現代においてなお広く愛されている所以はここにもあろう。
しかし、イタリアの、たとえばヴィヴァルディの様式に代表されるような器楽協奏曲をチェンバロの上に写したものと単純に考えることはできない。
バッハが出版譜に記した「f」と「p」からは、リトルネッロ(反復される部分)とエピソード(展開される部分)、独奏と伴奏のパートの交代が明確には見えてこない。第1楽章では、確かに両端部のリトルネッロははっきりしている。しかし中間部では、絡み合う様々な旋律線の中から幾度も主要楽節が湧き上がろうとするが、完全に主題を再現するには至らず、フレーズは切れ目を見出さないまま組みつ解れつ進んでゆく。バッハはここで明らかに、単純明快な対比よりも自由で複雑な展開を望んだのである。第3楽章は各声部が比較的独立しており、対位法風ということもできる。さらに緻密な動機労作が盛り込まれ、楽曲は簡明ながら高い密度を保つ。
こうした点から、この作品はイタリア趣味によるというよりも、イタリア的な音型や語法をふんだんにちりばめたものと言うべきだろう。第1楽章冒頭のリズムは、18世紀前半にハンブルクに活躍した著述家J. マッテゾンによれば「最新の流行」であり、第2楽章におけるオスティナート(同じリズム型や旋律型を繰り返す伴奏)に支えられた装飾豊かなアリアは、ヴィヴァルディの作品そのものを髣髴[ほうふつ]とさせる。だが、やはりバッハと同時代の美学者J. A. シャイベが「外国人たちにとってほとんど模倣すべくもない」と賞賛したように、作品の本質は、ドイツ的な主題労作と図式的な形式の克服にある。その精神はやがて、初期古典派のクラヴィーア・ソナタへと結実する。
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