HWV 439 g-moll
アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグから成る。ランぺは単旋律の走句が占める割合の多さから、アルマンドとクーラントはイタリアの「ソナタ・ダ・カメラ」、特にヴァイオリン・ソナタのソロとコンティヌオの対話が見本になっているという。主和音呈示と装飾的な走句で始まるアルマンドの前半は、バス上での2声の動機の対話が中心。後半はg-mollの楽段から始まってc-moll、Es-dur、B-durと近親調へ転調する。第33小節からB-durの属音の保続音上で、付点リズムの動機の掛け合いとなる。これは直後に主調で繰返され、今度は保続音がD音となり、主調の回帰を合図する。続く41―42小節の偽終止は主調の終止カデンツを先送りし完全終止を強調するためのものだろう。楽章最後の3小節は前半の最後と対応する。
クーラント冒頭の主和音呈示は、アルマンドとほぼ同じ形である。前半部の主旋律は主に最上声にあり、所々に2声間の模倣が見られるものの、全体的に見てポリフォニックなテクスチュアは目立たない。これは後半部の転調部分に見られる声部の絡み合いと対照的である。後半部におけるB-dur属音の保続音上での動機の掛け合い、続く主調g-mollでのその繰返しは、アルマンドと同じ構図である。
3/2拍子のサラバンドは、8小節の楽節4つから成る。他の楽節と特に対照的な構造をとるのは第2の楽節である。ここでは調的な対比に加えて、例えば第2の楽節の後楽節からは第2拍目にアクセントを置いた拍節のシンタックスが崩れ、その結果、単調なリズムに変化が生まれている。第3、第4の楽節は互いによく似ているが、和声的には異なる機能を担うことに注意したい。
ジグは実質のところ舞曲楽章ではなく、イタリアのソナタ・フィナーレである。頻繁に現れる3度の平行や手の交差(ex. 第90小節~)、スムーズなポジション移動を求められる分散和音(ex. 第8小節~)など、技巧的な部分が目立ち、スカルラッティのソナタの様式が思い起こされる。また繰返し現れる冒頭4小節の旋律は、オペラ《アルミーラ》の第10番のアリアと一致している。以上から、この組曲はハレ時代のヘンデルによる、イタリア様式の作曲への取り組みの一つと考えられている。