ファリャは、ピアノ作曲家としてよりも、近代バレエ作曲家として有名な作曲家であろう。
この曲はファリャが民族主義の立場を確立した頃(1907-1908)に作曲され、その特徴がよくあらわれているため、ファリャの数少ないピアノ作品の中でも重要な作品の一つとなっている。
以下の4つの小品からなる組曲。いずれも簡素な形式によっているが、異なる民族的な性格がそれぞれの曲の中で鮮やかに表現されている。書法は、アルベニスやドビュッシーに通じるところがある。アルベニスに献呈された。
第4曲が、単独で演奏されることもあるが、全曲を通して演奏するのが一般的。演奏所要時間は、約17分。
1.アラゴネーサ / No.1 "Aragonesa":8分の3拍子、アレグロ。前奏の和音の高まりは、この曲の序曲としての性格を特徴づけている。アラゴン風の曲調で、民族舞踊ホタのリズムが生かされている。すがすがしく、晴れやかな雰囲気で、モティーフが何度も繰り返される。転調が多いので、それぞれ色の違いを意識しながら弾きわけるとよいだろう。トランクィロでは、ダンスのリズムにあわせてしっとりと旋律が歌われる。
2.クバーナ / No.2 "Cubana":イ長調、4分の3拍子・8分の6拍子、モデラート。キューバ風の曲。拍子の入れ替わりが激しく、南国らしい自由な雰囲気がうまく表現されている。それにのせて、歌われる旋律も穏和で、のんびりと暖かい。A-B-A形式で、中間部はポコ・ピウ・ヴィーヴォ。おどけたようなリズム変化が面白い。拍子のゆれに伴った強拍、弱拍をうまく生かしながら、軽やかな表現を心がけたい。
3.モンタニェーサ / No.3 "Montanesa":ラ・モンターニャ風、二長調、4分の3拍子、アンダンティーノ・トランクィロ。 サブタイトルに「景色」とあり、印象派的な曲。冒頭からきこえる鐘の音は、曲を通して何度もこだましてきこえてくる。ピウ・アニマートで、トレモロの音にのせて歌われるのは、北部サンタンデールの民謡である。そして夕暮れどき、静かな情景の中にも、鐘の音が美しく響く。こだまの遠近感、夕暮れどきの静けさとひびく鐘の音の対比。音量のみならず音色にも変化を与えながら、効果的に音の響きをつくっていきたい。
4.アンダルーサ / No.4 "Andaluza":イ調、ミの旋法。4分の3拍子。ヴィーヴォ。
アンダルシア風の精気と情熱あふれる傑作。この曲は、単独で演奏される機会も多い。
ヴィーヴォでリズミカルに強奏される印象的な連打にはじまる。フラメンコを想わせる独特のリズムにのせて、魅惑的な雰囲気で旋律が歌われていく。ドッピオ・ピウ・レント・マ・センプレ・モッソの部分では、速度はおとされるものの、内に秘める情熱は消えていない。つづいて、うなるような低音が響いたかとおもうと、音楽は一気に激情的な高まりをみせる。ミの旋法を用いた歌が艶やかに歌われ、コーダで、再び冒頭の音形がpppで回想されたのち、消えるように曲を閉じる。