サン=サーンスは、名ピアニストとして、国際的に名を馳せていた。1868年、アントワーヌ・ルービンシュタインは、サン=サーンスをピアノ独奏者としてパリの演奏会に迎えた。ここで演奏されたのが、《ピアノ協奏曲 第2番 ト短調》である。時間に追われたため、わずか17日間で作曲され、練習にも十分な準備もできずに本番に臨んだ。完成された演奏ではなかったものの、演奏会は好評を博した。この協奏曲はサン=サーンス初期の代表作であり、彼の全ピアノ作品の中でも傑作のひとつとして数えらている。
ピアノ・ソロのヴィルティオーゾ的な見せ場も十分に用意されつつ、管弦楽とともにつくりあげられるその響きは曲に幻想的な魅力をもたらしている。情熱と叙情性に満ちた作品である。
第一楽章:アンダンテ・ソステヌート ト短調 4分の4拍子
自由なカデンツァに続き、ピアノソロにより提示される悲愴に満ちた第一主題は、サン=サーンスの弟子であるフォーレが作曲した主題を借用したものであるらしい。短い動機をつみかさねた経過部につづき、第二主題が変ロ長調でピアノによって示される。短いコデッタをはさみ、つづく中間部は、ソリストの見せ場である。分散和音の連続が非常に華やかでロマンティックな響きをつくりだす。ひき続き奏される音形が、音楽的な加速を促し、響きの大きな渦をうみだすが、これが管弦楽による主題の再現を絶妙に誘導している。ピアノのカデンツァの部分では第一主題、経過部の動機を用いながら、音楽が高揚し、序奏への喚起へと曲を導く。そして最後は断固とした和音により、序奏の再現が行われ、堂々と曲を閉じる。
第二楽章:アレグロ・スケルツァンド 変ホ長調、8分の6拍子
ソナタ形式によるスケルツォ月楽章。ティンパニの軽やかな跳ね返りをうけてピアノが溌剌とした第一主題を奏する。第二主題は、ファゴット、ヴィオラ、によって歌われ、これがピアノで繰り返される。この二楽章では、主題の交換、すなわち戯れのような掛け合いが非常に魅力的で楽しめる。この掛け合いの合間をぬって奏されるソリストの音階やアルペッジョは、音楽に華やかな彩りを与えている。
第三楽章:プレスト ト短調 2分の2拍子
ソナタ形式による。圧倒的な響きをもった4小節の導入部分につづき、リズミカルでおどけたようなピアノの第一主題が続く。第二主題はトリルをともないながら力強く示され、音数を増やしながらエネルギーを増していく。展開部ではそれぞれの主題がリズムを巧妙に重ね合わせながら展開し、再現部、コーダへ。音楽はその勢い、緊張感を緩めることなく、終結まで一気にかけぬける。