ロシア革命を逃れ、1918年にアメリカに移住し、ピアニスト、指揮者として活躍していたラフマニノフは、その多忙さから、十分な作曲時間をもつことができていなかった。しかし、1929年本拠地をパリに移してから、再び作曲に時間を費やすことができるようになった。《コレルリの主題による変奏曲 作品42》は、そのような時期、1931年に作曲されたものであり、ピアノ独奏曲としては最後の作品になった。親友のフリッツ・クライスラーに捧げられた。
この曲の基になっているのは、アルカンジェロ・コレルリ(1653-1713)のヴァイオリンのための作品《12の独奏ソナタ集 作品5》の第12曲〈ラ・フォリア〉である。フォリアは、イベリア半島を起源とした古い舞曲であり、低音部進行や、和声進行が定型化していることを特徴の一つとしている。曲のタイトルは“コレルリの主題による”となっているが、フォリアそのものがコレルリの創作であるというわけではない。
曲は20の変奏と間奏曲とコーダから成り、構成面において緻密な配慮がなされている。図式化すると、主題―(第1~第3変奏)―(第4~第7変奏)―(第8~第13変奏)―間奏曲―(第14~第16変奏)―(第17~第20変奏)―コーダ、となっている。
アンダンテの主題にはじまり、それぞれのグループにおいて、リズムやテンポを変化させながら、第20変奏のクライマックスへとむかう。コーダでは再びアンダンテとなり、静かに曲を閉じる。演奏時間は約20分。