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プロコフィエフ :子供の音楽-12のやさしい小品 Op.65

Prokof'ev, Sergei Sergeevich:Musiques d'enfants Op.65

作品概要

作曲年:1935年 
出版年:1936年 
初出版社:Muzgiz
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:20分30秒

解説 (1)

執筆者 : 佐藤 翠 (3037文字)

更新日:2013年11月14日
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1917年のロシア革命をきっかけにアメリカとヨーロッパで亡命生活を送っていたプロコフィエフは、ソビエト政権下となった母国に復帰し、1935年、パリに残していた妻子を呼び寄せた。《子供の音楽——12のやさしい小品》はその頃の作品である。

当時、ソ連共産党は芸術家に対し、社会主義リアリズムのもと人民にわかりやすく明快な作品を生み出す創作活動を要求すると同時に、国策として音楽教育に注力。子供のため「芸術的に優れた内容の作品」を作ることが、いっそう推奨された。これに反すると看做された作品は厳しく批判を受けるという状況の中、プロコフィエフはこの小品集を「子供のための音楽」として古典的、かつわかりやすい民俗的な楽想の小品でまとめつつ、その中に彼らしい音楽要素をちりばめた。今日でも音楽教育の場で用いられるだけでなく、コンサートなどの場でも広く演奏されている。

第1曲《朝 Matin》

Andante tranquilloという指示のとおり、穏やかで静かに始まる。明快なハ長調の主和音がpで奏されながら、八分音符と十六分音符が奏でるテーマはまるで、かがやく朝日のなかでひびく鳥のさえずりのようである。中間部(8~23小節)からは、広がりある八分音符のもと左手で新しい旋律が奏でられる。18小節目にてその美しい旋律は右手へと移り、八分音符の動きも左手へと渡される。24小節目からは冒頭のテーマが再現され、雰囲気をそのままに音楽がとじられる。曲想と題名ともに、曲集の冒頭にふさわしい小品である。

第2曲《散歩 Promenade》

軽快な3/4拍子の中、三連符と四分音符で奏でられる軽やかな足取りが特徴的である。Allegrettoらしい軽快なリズム、そしてハ長調という明快な調性であるが、プロコフィエフは時折その旋律や低音の流れの中、臨時記号を用いて非和声音を取り入れることで、モダンな響きによる色合いの変化をつけている。ゆったりとした第1曲とは対照的な曲想の小品である。

第3曲《物語 Historiette》

曲中を通して、特徴的な音型(十六分音符二つ+八分音符)が形をかえつつも常に鳴り響き、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出している。旋律においても、第2曲のような半音階的な動きはあまり見られない。イ短調という哀愁ある調性を十分に生かしながら、間奏部分(15〜21小節目)で打たれる重音の響きが、音楽に新たな色を加えている、どこか、おとぎ話の世界を描写しているかのようである。

第4曲《タランテッラ Tarantelle》

曲名のとおり、イタリアに由来する6/8拍子の急速な「タランテラ」のリズムにのって展開される、舞曲的な小品。初めはニ短調で躍動的なテーマが繰り返されるが、速いテンポにのってめまぐるしく転調していく。中間部(39〜48小節目)、長調へと一転して楽しげな雰囲気のなかでも、「タランテラ」の急速な八分音符は左手で続けられている。そして再現部(49〜80小節目)へと移るが、ここでは冒頭のテーマが弱拍ひとつ分だけ前にずれた形、つまり八分音符ひとつがアウフタクトとなったテーマになり、曲想にいっそう躍動感を加えているといえる。大きな転調はないまま再現部はしっかりと幕を閉じ、コーダ(81小節目〜)は堂々としたカデンツでしめくくられる。

第5曲《後悔 Repentirs》

Moderatoでの4/4拍子、ニ短調で構成されたこの小品も、題名のとおりの曲想をもつ。ゆったりとしつつどこか悲しげな4分音符のテーマが、対話しているかのごとく交互に奏でられる。17小節目からは流れるような八分音符の伴奏に、哀愁をおびた半音階の旋律がのせられている。

第6曲《ワルツ Valse》

Allegrettoのテンポで、楽しげなワルツのリズムを刻む左手で始まる小品である。そんな伴奏の上でくるくると踊り出すように、跳躍進行が特徴的な旋律が奏でられていく。25小節目からは、八分音符で重音で刻むという新しい音型が響き、どこかおどけた描写がされている。この中間部を過ぎると、再びワルツの伴奏型が現れて、曲がとじられる。「ワルツ」といえば古典舞踏に由来する伝統形式であるが、ところどころにモダンな響きの色を加えているところに、作曲家の個性があらわれている。

第7曲《きりぎりすの行進 Cortege de sauterelles》

「タッカ」のリズムではじまるこの二拍子の小品は、題名のとおりただの「行進曲」ではなく、「きりぎりす」の行進である。「タッカ」や十六分音符の目立つ旋律はいくぶん軽妙な表現で、きりぎりす達の隊列を描写しているかのようだ。同じ二拍子のなかでもコロコロと変わる曲想は、そうしたきりぎりすの様子がストーリー性をもって細かく表現された結果なのだろう。小さな音楽の中で、様々な場面転換が楽しめる小品である。

第8曲《雨と虹 La pluie et l'arc-en-ciel》

この小品には、冒頭から最後までところどころに、トーンクラスター(「音の群れ」の意。密集した音を同時にならす手法)の和音がちりばめられている。これが、これまでの小品にはない独特な響きを作り出している。Andanteというテンポで、その不思議な音のかたまりは、雨のつぶや虹の淡い輝きを表しているかのようである。どこか不安定な曲想ではあるが決して暗くはならず、プロコフィエフらしいユーモアをのぞかせている。

第9曲《鬼ごっこ Attrape qui peut》

「鬼」から逃げ回る子どもたちの足音が、「Vivo(活発に)」な八分音符で描写されている。その八分音符を支える左手のリズムも、音の跳躍によって子どもたちが跳ね回っている様のようである。終始、リズムも曲想も崩されることなく音楽が構成されているが、第4曲<タランテッラ>と似ためまぐるしい転調が、この小品に独特な色彩を与えている。

第10曲《行進曲 Marche》

第7曲<きりぎりすの行進>と同じ2拍子であるが、この小品の「行進」は第7曲のものより堂々とした四分音符で刻まれている。おそらく小さなきりぎりすではなく、兵隊の真似をする子どもたちの足取りであろう。冒頭から右手に時折あらわれる前打音も、子ども達の楽しげな様子を表しているかのようである。

第11曲《夕べ Soir》

第1曲<朝>と対になる<夕べ>と題されたこの小品は、その叙情的な曲調も第1曲とよく似ている。しかしAndanteという指示のあとにteneroso(柔らかく)とあり、第1曲のAndante tranquilloとは異なっていることに注目すると、この<夕べ>の方がくっきりとしたハ長調の第1曲に比べていくぶん柔らかい響きの和声で作られていることがわかるだろう。

第12曲《月が牧場に昇る Sur les pres la lune se promene》

小曲集のフィナーレとなるこの小品については、プロコフィエフ自身が自伝にて「ポレノヴォの野や草原の上に月がのぼるのを作曲小屋からよく眺めた」という思い出を語っている。ニ長調という明るい調性のなかで、少しだけ別れを惜しんでいるような雰囲気が、時々顔を出している。右手と左手が足並みを揃えて奏でられていくが、61小節目からの左手に現れる低いDの音は、夕の刻を告げる鐘の音のように響く。そんな鐘の音とともにだんだんと消えていくように、音楽は静かにしめくくられる。

執筆者: 佐藤 翠

楽章等 (12)

朝 Op.65-1

総演奏時間:2分00秒 

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散歩 Op.65-2

総演奏時間:1分30秒 

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物語 Op.65-3

総演奏時間:2分30秒 

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タランテッラ Op.65-4

総演奏時間:1分00秒 

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後悔 Op.65-5

総演奏時間:2分30秒 

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ワルツ Op.65-6

総演奏時間:1分30秒 

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きりぎりすの行進 Op.65-7

総演奏時間:1分00秒 

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雨と虹 Op.65-8

総演奏時間:1分30秒 

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鬼ごっこ Op.65-9

総演奏時間:1分00秒 

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行進曲 Op.65-10

総演奏時間:1分00秒 

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夕べ Op.65-11

総演奏時間:2分30秒 

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月が牧場に昇る Op.65-12

総演奏時間:2分30秒 

解説(0)

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