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メンデルスゾーン :ピアノ協奏曲 第1番 Op.25 O 7 ト短調

Mendelssohn, Felix:Konzert für Klavier und Orchester Nr.1 g-moll Op.25 O 7

作品概要

作曲年:1830年 
出版年:1832年 
初出版社:London
献呈先:Delfine von Schauroth
楽器編成:ピアノ協奏曲(管弦楽とピアノ) 
ジャンル:協奏曲
総演奏時間:20分00秒

解説 (1)

解説 : 髙橋 祐衣 (2928文字)

更新日:2019年3月29日
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 主な作曲時期は1831年、メンデルスゾーンがヨーロッパ全域をまわる大旅行でミュンヘン[a]に滞在していた頃の作品である。同年10月、当地のオーケストラと共に作曲者自身のピアノによって初演され、大成功を収めた。翌年には、パリのピアノ製造業者エラールのサロンや、ロンドンのフィルハーモニー協会の演奏会で披露。特にロンドン公演についてメンデルスゾーンは「私の人生でこれほど成功したことはないかもしれない」と家族宛ての手紙で報告しており、初版譜も1832年に英国で出版されている。その後もこの作品は多くのコンサートで取り上げられ、彼がのちに音楽監督を務めることになるライプツィヒのゲヴァントハウスでは、19世紀中は自作の《ヴァイオリン協奏曲 ホ短調》op. 64以上に演奏機会が多かったほどである。独奏者の技巧を魅せる華やかさとともに、深い抒情性をあわせ持つ作品。

 全体を通して、古典的な協奏曲の形式を逸脱した点が多々見られる。例えば、古典的な協奏曲では、まずオーケストラが主題を提示した後に独奏者が加わって再び主題が提示することが慣例であったが、この曲の第1楽章では僅か7小節の短い管弦楽の導入を経て、すぐにピアノが登場する。このような聴き手を驚かせる効果はモーツァルトやベートーヴェンの協奏曲でも用いられているが、彼らの音楽になじみのない聴衆にとっては[b]メンデルスゾーンの書法は極めて斬新に響いたであろう。また、全楽章が休みなく続けて演奏されること、そしてそのために各楽章の間に移行のパッセージが設けられていることも特徴的である。楽章間のattaccaはメンデルスゾーンがよく用いた手法[c]であり、彼の《交響曲第3番 イ短調》「スコットランド」や《ヴァイオリン協奏曲 ホ短調》にも見られる。これは、当時の演奏会では一部の楽章を抜粋して演奏されることが少なくなかったことを危惧しての対策かもしれない。さらに、この曲は全体を通して循環的な主題の回帰と変容を含んでおり、楽章間の関連性が強い作品となっている。

第1楽章:Molto Allegro con fuoco

 ソナタ形式、ト短調。管弦楽がわずか7小節でpからffまで昇り詰めると、すぐにピアノが現れ、オクターブのユニゾンで音階を駆け上がるドラマティックな冒頭。20小節から力強い第1主題がピアノで提示されたのち、息つく暇もなく37小節からTuttiにより第1主題が再提示される。しばらくオーケストラが音楽の主導権を握るが、すぐにピアノが両手の急速な音階を伴って主導権を取り戻す。嵐のようなピアノ独奏の後、76小節から変ロ長調で抒情的な第2主題が現れる。つづく展開部では、ピアノは主に管弦楽のオブリガードや伴奏、そして和声的な増強の役割が与えられているが、その急速な音階やアルペジオこそが展開部の熱烈な激しさをより一層際立たせている。179小節から曲の冒頭と同様の管弦楽による導入句が現れ、再現部に入る。提示部と比べて再現部は大幅に展開が短縮されており、その開始から17小節で第2主題が登場する。このような急速な展開により楽章をコンパクトにまとめる書法は、作品の緊迫感を高めるのに一役買っている。第2主題ではすぐに管楽器に旋律を譲るものの、独奏ピアノの伴奏音型が発展し、荒れ狂うような旋回音型を経て、序奏主題の反行が盛り上がりの頂点で現れる。そのまま再び主導権を管弦楽に譲ると、第2楽章との橋渡しのための管楽器によるファンファーレが奏される。ファンファーレでは金管楽器のロ音を軸にト短調からホ短調を経由し、第2楽章のホ長調に続く。

第2楽章:Andante

 3部形式、ホ長調。ピアノによる短い導入の後、チェロの得も言われぬ旋律が現れる。敢えて美しく華やかな響きを持つヴァイオリンを休みにし、代わりにチェロの高音域に旋律を与えたことは特筆すべきである。このことにより渋みのある、やや物寂しさを伴った響きが生み出されており、ピアニストのみならず作曲家としても名声を確立していたメンデルスゾーンならではの管弦楽法と言えるだろう。ピアノが一度主題を担当し展開させた後、ロ長調の中間部が始まる。32分音符が連続するピアノの譜面は一見すると極めて技巧的に見えるが、弦楽器の旋律のオブリガードであり、第1楽章で見られた激しさはない。ここでもやはりチェロなどの低音域の楽器が管弦楽の主体であるが、それと対話をするピアノの右手は高音域に集中しており、このことにより独奏者のオブリガードが透き通るように聴こえてくる。そのまま16分音符は主部に戻った後も続き、音楽を一度膨らませた後、再び独奏ピアノを中心とした静謐な世界に戻る。楽章全体を通して、あたかも古き良き時代の追憶を思い返すかのような雰囲気があり、また低弦の旋律とピアノの高音域の瑞々しさ、そしてそれにより生まれる遠近感も実に見事である。

第3楽章:Presto—Molto Allegro e vivace

 序奏付きロンド形式、ト長調。前楽章までの夢を打ち砕くかのようにイ短調のファンファーレが鳴り響き、そのままフィナーレに突入する。このファンファーレにおける同音反復は第1楽章と第2楽章の間のファンファーレと同じものであり、その響きの重なりはベートーヴェンの《交響曲第5番》「運命」を思わせる。協奏曲冒頭を彷彿とさせる急激な上行音型を経てエネルギーが頂点に達した瞬間、ピアノが示す急速なト長調の下行アルペジオにより溜まったエネルギーが炸裂する。主部のMolto Allegro e vivaceでは、まず喜びに満ちたト長調の主題がピアノによって提示される。この主題は付点のリズムや順次進行の下行という点で第1楽章の序奏に現れるオーケストラの経過句と類似している。しばらくの経過を経て、そのままピアノが右手の分散和音によって第2主題を提示する。この主題はすぐに装飾音を伴って管楽器によって縁どられていくが、フィナーレにおいて作曲上の重点が置かれているのは第1主題ではなく、むしろこの第2主題である。やはりこの分散和音もオーケストラの伴奏という位置づけではあるが、第1楽章同様、フィナーレの颯爽と駆け抜ける快活さはピアノの16分音符が担っていると言っても過言ではないだろう。これを軽やかに演奏することで一層演奏が輝かしくなることは言うまでもない。しばらく展開を続けたのち、第1主題の途中で突如第1楽章の序奏主題が割り込んでくる。そして、音楽が少し和らいだかと思いきや、蘇るように第1楽章の第2主題も回想される。その後すぐにコーダに突入し、第2主題の分散和音と第1主題の上行音型を掛け合わせた音型を中心に再度展開され、最後は息つく間もなく大団円で輝かしく幕を閉じる。

[a]校正上、ミュンヘンとさせていただければ幸いです。

[b]こちら、表現を変更いたしました。

[c]書法⇒手法に変更いたしました。

執筆者: 髙橋 祐衣

楽章等 (3)

第1楽章

総演奏時間:7分30秒 

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第2楽章

総演奏時間:6分30秒 

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第3楽章

総演奏時間:6分00秒 

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