2台のピアノのための作品。ラフマニノフが20歳のとき(1893年)に作曲され、チャイコフスキーへ献呈された。ラフマニノフを高く評価し、協力してくれた彼への感謝の気持ちがこめられている。しかし、1893年11月30日の初演を待つことなく、チャイコフスキーは同月の6日に急逝してしまった。
以下の4曲から成る。それぞれが、詩から得たインスピレーションを基に、絵画的に作曲された作品である。
1.バルカロール / Suite No.1 'Fantasie-tableaux' op.5-1 アレグレット ト短調
ロシアの詩人レールモントフの詩『ベネチア』の一節が引用されている。4分の3拍子でただよう波のような伴奏にのせて、高音部で甘く、悲しい旋律が始めは静かに、徐々に感情の高まりをみせながら歌われていく。
2.夜と愛と / Suite No.1 'Fantasie-tableaux' op.5-2 ニ長調
イギリスの詩人バイロンの詩が記されている。単音で奏でられる旋律と、アルペジオが甘いかけあいをみせながら、美しく曲がはじまる。旋律にそって上下に駆けまわる装飾的な音とともに音楽は徐々に高まりをみせていく。ナイチンゲールの鳴き声が印象的にきかれる。
3.涙 / Suite No.1 'Fantasie-tableaux' op.5-3 ラルゴ・ディ・モルト ト短調
全体を通して、下降する4つの4部音符が悲しげに、何度も奏される。ラフマニノフは幼少の頃から、故郷ノブゴロドの教会できかれる4つの鐘の音を悲しみの象徴として感じていた。そして、「この曲を考えている時に、その鐘の音がきこえてきた」と、ラフマニノフは後に語っている。曲は徐々に音量を増し、そして静かに曲を閉じる。ロシアの詩人チェッチェフの同名の詩が引用されている。
4.復活祭 / Suite No.1 'Fantasie-tableaux' op.5-4 アレグロ・マエストーソ ト短調
ロシアの詩人ホミャコフの同名の詩が引用されている。ロシア復活祭の聖歌や、鐘の音が印象的にきかれる。同じ音型をくりかえし重ねながら、主題が、力強く厚みのある響きをつくりだしていく。