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フォーレ : 舟歌 第2番 ト長調 Op.41

Fauré, Gabriel : Barcarolle No.2 G-Dur Op.41

作品概要

楽曲ID:188
作曲年:1885年 
出版年:1886年
初出版社:Hamelle
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:舟歌
総演奏時間:7分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (3)

総説 : 白石 悠里子 (212 文字)

更新日:2014年5月27日
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1885年8月に作曲、1886年にマリー・ポワトヴァン嬢 Mlle Marie Poitevinに献呈。1886年にアメル社から出版、1926年に同社から生前にフォーレ自身が改訂した稿が出版される。初演は1887年2月19日に国民音楽協会にて被献呈者であるポワトヴァン嬢によって行われた。ポワトヴァン嬢はセザール・フランク《前奏曲、コラールとフーガ》(1884年作曲)の被献呈者でもあり初演者でもある。ト長調、8分の6拍子

執筆者: 白石 悠里子

成立背景 : 白石 悠里子 (1835 文字)

更新日:2014年5月27日
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《舟歌》第2番の自筆稿には「Taverny-aout, 1885(タヴェルニー―8月、1885年)」の表記が入っている (*1)。1885年の夏、父親の死(7月25日)に伴い一旦トゥールーズへ立ち寄ったフォーレは悲しみに暮れる間もなく、7月末日にはベルギーのアントウェルペンで開催された万国博覧会へ出かけていた。8月3日に予定されていた自身の《交響曲 ニ短調》作品40の再演(初演は同年3月)に立ち会うためだ。結局この公演はキャンセルになり10月にダンディに指揮されるまで延期されるのだが、いずれにしてもアンヴェールから戻った後、フォーレは8月半ばまで家族とフランス中部のネリNérisにいたようである (*2) 。

書簡から分かるのは以上の事柄のみで、あいにく《舟歌》第2番作品41に直接関連する本人の証言は見当たらない。しかし、フォーレの次男フィリップによれば、フォーレの父親逝去の前後に妻マリーと子どもたちは、自筆譜にあるパリ北部郊外の街タヴェルニーの友人宅に身を寄せていた(*3) 。したがって、《舟歌》第2番は一連の旅行が終わった頃に書かれたものと推測できる。

また、フォーレは1922年から24年にかけて最初の6つの《舟歌》の改訂作業を行い、その改訂稿は1926年に『6つの夜想曲と5つの即興曲』として出版された。改訂の内容について、例えばフォーレ自身は書簡の中で、第5番の終わり部分のことに言及している(*4) 。そしてこの第2番に関しては、自筆稿と1886年稿、1926年稿との間の相違点がフォーレ全集(*5) において指摘されている。

まず「自筆稿および1886年稿」と「1926年稿」との間には、冒頭の楽想記号と速度記号に差異が見られる。自筆稿と1886年稿では冒頭のAllegretto quasi Allegroとは別にレッジェーロ(leggiero)という楽想記号が付されているのに対して1926年稿ではそれが削除されている。速度表示については、自筆稿と1886年稿では付点四分音符=76であるのに対して、1926年稿では付点四分音符=58と改められている。

次に「自筆稿」と「1886年稿および1926年稿」との比較では、アルペッジョ記号の掛かり方に大きな違いがある。最高音以外のバスから内声部のみに付されているアルペッジョ記号は、自筆稿では所々で最高音を含む全ての音に掛けられている。具体的には第1−2小節、第7、10-12小節などに当該箇所があり、全集の校訂では自筆稿が反映されている。自筆稿のアルペッジョ記号に従えば、フレージングはより短いものになるとも解釈できる。さらに冒頭の速度記号やレッジェーロ記号と併せて考えれば、元々この作品は一層軽やかな曲想を持っていたとも言えるだろう。

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*1 Ms. 17740(フランス国立図書館所蔵)。«aout»のアクサンは抜けている。

*2 1885年7月1日付けの友人プジョーへ宛てた書簡で、8月16日までネリにいることを予告している。Cf. Gabriel Fauré, Gabriel Fauré Correspondance, textes réunis, présentés et annotés par Jean-Michel Nectoux, Paris : Flammarion, 1980, p. 121.

*3 Gabriel Fauré, Lettres intimes, présentées par Philippe Fauré-Fremiet, Paris : Bernard Grasset, 1951, P.11.

*4 Op. cit. 1980, p. 330.

*5 Christophe Grabowski (éd.), Gabriel Fauré œuvres complètes, SérieVI œuvres pour piano, volume 2, Ballade op. 19, Barcarolles, Valses-Caprices, BA 9468 Bärenreiter 2012, éditées par Christophe Grabowski, Kassel, Basel, London, New York, Praha : Bärenreiter, p. 214-215.

執筆者: 白石 悠里子

楽曲分析 : 白石 悠里子 (637 文字)

更新日:2014年5月27日
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三部形式(ABA’-Coda)形式で書かれた本作は、フォーレの《舟歌》の中でも規模の大きな作品。各セクションは、Aが第1-74小節、Bは第75-124小節、A’は第125-168小節、そしてCodaは第169-183小節である。跳躍進行の多い旋律とそれに連動して切り替わる和声から生じる和声リズムは、この作曲家の《舟歌》に見られる特徴と言えるが、ここでは特に拍子感覚のことに触れる。

「舟歌」に特徴的な6/8拍子で始まるものの、第25-47小節などに見られるように、9/8拍子が時折織り交ぜられて構成される。ここで注目すべきは、9/8拍子から6/8拍子へ回帰する第56小節からのフレーズである。拍子記号の変更後も、第56-65小節では2拍子に回帰することなく3拍子の刻みがそのまま維持される。これによってテンポ指示の変更に頼ることなく、音楽の流れに変化が生まれ、さらに上行音型と相まって舟歌らしい躍動感が楽曲に与えられることになる。1926年稿では第56小節に「Conservez le rythme à 6/8(6/8拍子のリズムを保って)」と注が付けられているが、実は自筆稿と1886年稿にこの指示はない。つまり、6/8拍子の中で3拍子を維持するというこの書法の特殊性をフォーレ自身が認識していたと言えるのだ。基本的な拍節の枠組みを変えることなく拍子感覚を自在に操る書法は《舟歌》第5番などにも見られ、このジャンルにおけるフォーレの様式を捉える重要な要素の一つと見なせる。

執筆者: 白石 悠里子
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