アルベニスは《スペイン組曲》という曲集を2つつくっているが、一般的に親しまれているのは、この第1集である。
アルベニス初期の作品であり、8曲の組曲として知られている。しかし、もともとは1886年に4曲(第1、2、3、7曲)が作曲されたきりで、残りの4曲(第4、5、6、8曲)は、タイトルしか残されていなかった。アルベニスの没後、出版社はこのタイトルのみの4曲に対し、彼の他の楽曲をあてがい、これを出版した。躍動感あるリズム、ギターを思わせる音色など、いずれもスペイン色の強い作品。ギターへの編曲版としても有名である。
第1曲〈グラナダ/ "Granada(Serenata)"〉
アンダルシアの古都グラナダへの想いがこめられた曲である。アルベニスは22歳の時、グラナダで過ごし、独特の風情をもったその街を大変愛していた。彼はこの曲について「狂おしいほどにロマンティックで、絶望的なほどに哀しいセレナード」であると手紙に記している。ギター風の伴奏、美しい旋律など、魅力的な作品。
第2曲〈カタルーニャ/ "Cataluna(Coranda)"〉
アルベニスの故郷、スペインのカタルーニャ地方の雰囲気を想起させる作品。この地方に伝わるハーディ・ガーディという楽器の音を模してかかれている。8分の6拍子の舞曲調で、繰り返されるハーディ・ガーディの音が、しだいに遠ざかっていく。
第3曲〈セビーリャ/ "Sevilla(Sevillanas)"〉
セビーリャの雰囲気をたたえた作品。A-A’-A-B-Aの形をとっている。舞曲セビリャーナスの速いテンポ、カスタネットのリズムにのって、祭り(復活祭聖週間)の主題が情熱的にうたわれる。それとは対照的に、中間部では、哀愁ただよう宗教歌サエータがきかれる。リズムを活かしつつ、効果的に音をつなげるために、ペダリングにも工夫が必要であろう。
第4曲〈カディス/ "Cadiz(Cancion)"〉
《セレナータ・エスパニョーラ》作品181を転用したもの。
ジブラルタルの北西にある港市カディスの雰囲気を想わせる曲。3部形式。スペイン風舞曲のリズムにのせて、男性的なセレナータが、のびやかに歌われる。情熱的な中間部を経て、再び冒頭のリズムへ。ppで静かにしめくくられる。
第5曲〈アストゥリアス/ "Asturias(Leyenda)"〉
組曲《スペインの歌》作品232の第一曲〈前奏曲〉を転用したもの。アストゥリアスは、スペイン北部にあり、山や森林、谷間や牧草地に恵まれた地方である。ギター的な奏法がピアノで表現されており、独特の色彩感が表出されている。A-B-A(-コーダ)の形をとっている。リズム主題が、次第に高まりをみせ、神秘的な雰囲気をもつ中間部へ。ここで奏されるニオクターブのユニゾンは、アルベニスが好んで使用していたものである。再び第一部が回帰され、コーダへと至る。
第6曲〈アラゴン/ "Aragon(Fantasia)"〉
《2つのスペイン舞曲》作品164の第一曲〈アラゴン〉を転用したもの。東北スペインのアラゴン地方に知られる、ホタの舞曲が、華麗、かつ爽快に描かれている。ホタは、速い3拍子のリズムと、カスタネットの伴奏にのせて踊られる。
第7曲〈キューバ / "Cuba(Capricho)"〉
キューバは、1898年までスペイン領であり、アルベニスは、少年時代、ここを訪れている。南国風の明るい雰囲気の中にも、一抹の哀愁を感じさせる。8分の6拍子と、4分の3拍子の間を揺れ動く、舞曲の形でかかれている。
第8曲〈カスティーリャ/ "Castilla(Seguidillas)"〉
組曲《スペインの歌》作品232の第五曲〈セギディーリャス〉を転用したもの。カスターリャ地方は、昔、スペインの中央部を占めており、王国があった。セギディーリャスとは、そこでうまれた3拍子の民族舞曲であり、ビゼーの《カルメン》にも用いられていることで知られる。リズム旋律が、たくみに組み合わされ、曲を構成している。カスタネットとギターの伴奏、転調、変化和声など、アルベニスの巧みさと感性が光る。