オペラ《ペネロープ》(1907—1912)に取り組んで以降、フォーレは《ノクターン》や《舟歌》を除いてほとんどピアノ独奏曲を残していない。そのような中で、1909年から1910年にかけて作曲されたこの《9つの前奏曲》は彼の後期を代表するピアノ曲集であると言える。なお、直接的な創作上の関連性は指摘されていないものの、奇しくもドビュッシーが《前奏曲集》の第1集(1909-1910)を作曲した頃と重なる。
全9曲は2つの時期に分けて作曲されている。第1番から第3番は1910年1月初旬に仕上げられ、1910年にウジェール社から出版された。初演は1910年5月17日に独立音楽協会演奏会にて、マルグリット・ロンにより行われている。続く第4番から第9番は、1910年の夏から秋に作曲、1911年に同社から出版された。1923年に《9つの前奏曲》として1つの曲集にまとめられてウジェール社から出版され、エリザベート・ド・ラルマン嬢 Mlle Élisabeth de Lallemandへ献呈された。
フォーレによって書かれたピアノのための前奏曲には、ニデルメイエール古典宗教音楽学校卒業後に移り住んだレンヌで書かれた《前奏曲》(1869年、ホ短調、未出版)や、わずか16小節の《前奏曲》(1897年、ハ長調)がある。しかし、このジャンルにおいて集中的に取り組んでまとめられたのはこの《9つの前奏曲》が初めてである。
ネクトゥーはこれら9曲を、(1)夜想曲的な響き豊かなもの(第1番、第3番、第7番)、(2)練習曲のような技巧的なもの(第2番、第5番、第8番)、(3)ポリフォニックなもの(第4番、第6番、第9番)という3つのタイプに分類している(*1)。各曲の書法は多様性に富み、この時期のフォーレのピアニズムが凝縮された曲集である。
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*1 Jean-Michel NECTOUX, Gabriel Fauré. Les voix du clair-obscur, 2e éd., Paris, Fayard, 2008, p. 490.