メンデルスゾーン : ピアノ・ソナタ 第1番 ホ長調 Op.6 U 54
Mendelssohn, Felix : Sonate für Klavier Nr.1 E-Dur Op.6 U 54
作品概要
作曲年:1826年
出版年:1826年
初出版社:Hofmeister
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:26分00秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (2)
執筆者 : 和田 真由子
(794 文字)
更新日:2007年10月1日
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執筆者 : 和田 真由子 (794 文字)
1826年、メンデルスゾーンが17歳の時に作曲、出版された。ベートーベンからの影響が随所にみられるが、《ソナタト短調 作品105》と比べて、独創性が増している。全4楽章からなり、続けて演奏される。平均演奏時間は25分程度。
第1楽章 ホ長調 アレグロ。コン・エスプレッシオーネ:ベートーベンの《ソナタ第28番 イ長調 作品101》を参考にして書かれており、非常に似通った性格をもっている。ソナタ形式で、短い展開部をもつ。全体的にゆったりとしたテンポを崩さず穏やかな雰囲気を保っている。
第2楽章 嬰へ短調 テンポ・ディ・メヌエット:スタッカートで軽やかに、そして優雅に奏されるメヌエットの部分と、ピウ・ヴィヴァーチェ、レガートで、柔らかく奏されるトリオの二つの部分から成る。
第3楽章 レチタティーヴ・アダージオ・エ・センツァ・テンポ:譜面では、第2楽章から続けて書かれている。レチタティーヴでは、調号と拍子記号がなくなり、小節線もかかれておらず、文字通り、話すように奏される。徐々に声部が増えていくため、注意深い耳と集中力をもって各声部を弾きわける必要がある。アレグレット・コーメ・プリマでppからffへ、響きに厚みを加えながら盛り上がり、その勢いのまま4楽章へ続く。
第4楽章 ホ長調 モルト・アレグロ・エ・ヴィヴァーチェ:全体的には、ソナタ形式に近い形をしており、2つの主題による部分、展開部的な性格をもった中間部、再現部に続き、アレグロ・コン・フォーコ、アレグロ・コン・エスプレッシオーネと続く。全体的に勢いよく曲が進むが、アレグロ・コン・エスプレッシオーネでは、これまでの勢いとは対照的にトランクイッロで奏される。第1楽章の主題が再び現れ、循環形式が用いられているが、これもベートーベンからの影響である。最後は、分散和音の静かな下降音形で、穏やかな雰囲気を増しながら、静かに曲を閉じる。
演奏のヒント : 大井 和郎
(2045 文字)
更新日:2018年3月12日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (2045 文字)
第1楽章
筆者の主観的な議論になってしまうのですが、メンデルスゾーンの音楽とは、他のロマン派の作曲家に比べ、決して深刻ではなく、それは古典派で言えばモーツアルトに近い音楽だと思っているところがあります。メンデルスゾーンの音楽の特徴としては、「spinning music」と言って、常に回転している音楽という事です。ヴァイオリンコンチェルトの最終楽章や、ロンドカプリチオーソなどのピアノ曲でも、軽く、速く、上品に、常に回っているような感じを受けますね。このソナタの最終楽章も同様です。一見ホモフォニーの要素が強いようにも思えますが、このソナタの第1楽章のように、ポリフォニーの要素が強い曲も多くあります。それでいながらロマン派特有の幻想の世界にも入り込みます。まず冒頭から見て行きましょう。
表示はallegretto con espressione です。1-2小節間、2小節目1拍目のメロディーEに向かっていき、たどり着いたら4小節目まで衰退します。5小節目、何かを期待するような気持ちで。6小節目、その気持ちがもっと強くなり、7小節目のメロディーGisで頂点に達します。
9小節目、1小節目と同じ主題ですが厚みが違いますね。喜びを感じる部分です。このセクションの終わりは、18小節目の1拍目までとします。そうすると、ここまでは2つに分けることができ、9小節ずつピタリと分かれます。
18小節目からはメンデルスゾーン独自の非和声音の使い方で幻想の世界に入ります。左手を見て頂くと、和声音であるE Gis H に Aisが混ざっていますね。本来であれば濁ってしまう音ですが、わざわざそのような音が書かれてあります。このセクションはペダルを踏み続け、左手をPPに、ぼんやりとした音で弾くことによって別世界に入ります。このAis無しでは演出不可能な世界です。もちろん18-19小節間、20-21小節間、22-23小節間と和音が変化しますのでその際にはペダルの切り替えが必要です。このセクションは決して強い表現では無く、左右ともにppの限りを尽くし、幻想の世界に入ってください。
27小節目より現実の世界へと戻ります。ここは右手のメロディーラインが歌の部分になりますので、このラインはハッキリと、その他の声部はpで演奏し、第1のゴールである31小節目にたどり着きます。ここから43小節目まで、たわいの無い、しかし表現の強いお話が続きます。そして44小節目に来て、ダイナミックレベルは1度ppに落ちます。しかしここから16分音符の伴奏形は2声になります。そして2つ目のゴールである52小節目に向かい、56小節目で再び音量を落とし、最後のゴールである63小節目に向かいます。ここを頂点に定め、そこから先は徐々に衰退していき、最もppである76小節目に入り、再び幻想の世界になり、提示部を終えます。
学習者の皆様にはもう一度譜面を大きく見て頂きたいのですが、この提示部で、16分音符がスタートするのは18小節目です。そして16分音符が終わるのは81小節目です。つまりは、18小節目よりすでに、最も大きくなるべきである63小節目に向かって始動をし始めているのです。途中何度もダイナミックは落ちますが、精神的な圧迫は18小節目から63小節目まで、かなり長い道のりを辿ることになり、その間、テンションを落としてはなりません。もちろんダイナミックは守るのですが、絶対に音楽を止めてはなりません。絶対に止まることの無い、次から次へと押し寄せる波、そして大きくなっていく音楽、これがメンデルスゾーンのspinningの世界なのです。
83小節目より展開部に入ります。短調で始まりG-durに転調します。ところが92小節目でおかしな事が起きます。主題が突然途中で切れてしまい、不気味な低音がスタッカートで刻まれます。主題は何度か現れるものの、この2つの8分音符のスタッカートは休み無く続きます。この8分音符のペアが無くなるのは108小節目で、ここから110小節目でようやく落ち着きを取り戻しますね。それではあの8分音符のペアは何だったのでしょうか。筆者はあのスタッカートのペアはタイミングから想像すると人間の「心臓音」ではないかと思っています。恐怖の描写です。
110小節目でようやく一段落付いたのもつかの間で、16分音符は再び112小節目から始まります。再現部が提示部と異なる部分は、提示部で2回目のピークである51-53小節目が、少し伴奏形の形を変えて、132-134小節間に現れます。そして、提示部では最もピークとなった63小節目と一致する部分は再現部にはありません。145小節目からCodaが始まっていると言っても良いでしょう。146-149小節間、和音は少し不気味になりますが、150以降は平穏に戻ります。
場面場面のムードを考え、長い目で音楽を見て下さい。そして決して音楽を「止めないように」演奏することがヒントです。
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