1940年3月4日、パリにて作曲。すでに欧州の戦局は切迫し、ナチスから退廃音楽の書き手との烙印を捺されたタンスマンは、身重の妻と乳呑み子を抱え渡米の手筈に苦慮する厳しい日々を送っていた。これはその合間に書いた小品。一気呵成の勢いといい、調性の崩し方といい、いかにも手だれの筆で惚れ惚れする。ラヴェルの《ラ・ヴァルス》や《高雅で感傷的なワルツ》がお好きな方なら、まず間違いなく気に入っていただけよう。タンスマンにとってラヴェルは若き日の第一の恩人であった。小粒ながら、ラヴェルと同質の例の熱狂がここにもある。当時パリ・オペラ座の座付でこの年にエトワールに昇格したプリマバレリーナのリセット・ダルソンヴァルへの献呈。作曲された当日、パリの国際舞踏資料会館(Salle des Archives Internationales de la Danse)にて、ダルソンヴァルの舞踊付きで作曲者が初演。前奏部 Lento (ad libitum) 主部 Tempo di Valse (Moderato) 4分の3拍子、ヘ長調(調号なし)。