本曲集はもともと演奏会用の音楽ではなく、ラジオで放送される詩の朗読の付随音楽として構想された。ドイツ軍占領下のパリでは、レジスタンスに共鳴する文学者・音楽家たちが、ナチスのラジオ局に対抗してフランス国営ラジオを立ち上げた。彼らがラジオ放送の方針として重視していたのは、聴取者に芸術のさまざまな側面を紹介し、それによって聴取者の教養を高めることであった。こうした企図にもとづいて、文学、音楽、演劇など芸術の諸ジャンルを横断した「ラジオ芸術」の創作が奨励されるようになる。音楽放送の最高責任者に内定していた作曲家アンリ・バロー(1900-1997) は、イエスの降誕の物語を詩と音楽で表現するクリスマス用の番組を企画し、1943年末、テクストと音楽の創作をトエスカとメシアンにそれぞれ依頼する。対独協力的な活動を行っていたとされるトエスカにバローが委嘱を行った理由は定かではないが、1944年2月ころメシアンとトエスカは計画について具体的に話し合っている。作品名は《12のまなざし》に決まり、メシアンとトエスカはその後連絡をとり合うことなく各自の創作を続けた。パリが解放された1944年8月、メシアンの創作はほぼ終わりに近づいていたが、このとき彼が作曲を完了した「まなざし」の数は20を超えていた。メシアンは9月11日、知人ドラピエールの家にトエスカらを呼び、私的な初演をみずからの演奏で行った。結局当初予定されていたクリスマス用番組は放送されず、最終的に曲数は20に落ち着いた。献呈されたロリオによる全曲の公開初演は1945年3月26日、サル・ガヴォーで行われ、ここでメシアンは4ページの解説を配布し、各「まなざし」の演奏に先立ってそれを読み上げている。スコアは1947年デュラン社から出版された。
1. 父のまなざし Regard du Père
2. 星のまなざし Regard de l’étoile
3. 交換 L’échange
4. 聖処女のまなざし Regard de la Vierge
5. 子にそそぐ子のまなざし Regard du Fils sur le Fils
6. その方によって万物はつくられた Par Lui tout a été fait
7. 十字架のまなざし Regard de la Croix
8. いと高きところのまなざし Regard des hauteurs
9. 時のまなざし Regard du temps
10. 喜びの聖霊のまなざし Regard de l’Esprit de joie
11. 聖処女の初聖体拝領 Première communion de la Vierge
12. 全能のことば La parole toute puissante
13. 降誕祭 Noël
14. 天使たちのまなざし Regard des Anges
15. 幼な子イエスの口づけ Le baiser de l’enfant-Jésus
16. 預言者、羊飼い、東方三博士のまなざし Regard des prophètes, des bergers et des Mages
17. 沈黙のまなざし Regard du silence
18. 恐るべき塗油のまなざし Regard de l’Onction terrible
19. 眠っていてもわたしの心は目覚めています Je dors, mais mon cœur veille
20. 愛の教会のまなざし Regard de l’Eglise d’amour