10. 小さなたんけん (A Little Expedition)
■作曲者について 三善晃(1933-2013)は、オーケストラやピアノ作品の他にも、合唱や吹奏楽、音楽の教育分野においても重要な作品を残した、日本を代表する作曲家です。Miyoshiピアノメソードなどもレッスンに取り入れている先生も多いかと思います。この「小さなたんけん」は、連弾を含む36曲からなる、子供のためのピアノ曲集『音の森』(1978)に収録されています。
子供のための曲集ではありますが、現代作品でも大家であった三善先生ですので、ただの長調・短調では終わりません。調が比較的に明らかな部分でも「本当にそうですか?」とばかりに和音から外れた音があったり、メロディーに対して自由に即興的につけられている和音など、子供たちに感じさせる、考えさせる工夫がなされています。和声的に分析するより、音の向かう先、ベクトルであるとか、色味(色彩感)を意識してみると世界観に入りやすいと思います。
■1〜8小節目 三和音の基本形の連続と、右手の快活さが上手く同居できるようにしたいところです。左手の繋がり(ド→レ→ファ→ソ→ファ→ミ→レ→ド)を大事に感じながら弾くとよいでしょう。b.5からは右手の最高音と左手の最低音が左右に拡がりつつ、cresc.が自然とつくように。
■9〜16小節目 短調(短旋法)になったのを十分意識して気分を切り替えたい部分です。ただし音量の指定はmfと、冒頭と同じだったりします。11〜12小節の点線で繋がれた音Eb(D#)→Eはa mollのドッペルドミナントの第3音(導音)の動きです、特に注意して繋げましょう。13小節目で左右の手が交差することと音量がpになることがリンクされています。15小節目ですぐ元に戻りますが、よくコントロールして飛び出さないように気をつけて。
■17〜20小節目 この曲で一番自由な和声付けがなされています。下段に書かれたメロディーに色々な和音がついてきますが、暗い色調の和音から少しずつ長三和音へと、徐々に長調を準備しつつcresc.していくため、C durに向けてトンネルを抜けていくイメージが想定されているのでは、と推理できます。
■21〜24小節目 概ね最初の段落に似た進行ですが、mfからのcresc.に対してここはmpから最後はdecresc.となっています。Bassの流れをよく聴かせたい、という点は共通しています。22小節目からさながらBartokのような3度の進行が見られますが、ここも隠された音を探して和音を補完してみても面白いと思います。どう感じてどう弾くのか、という点ではどの曲でも“探検”です。