【演奏のヒント】
・第1楽章:ソナタ形式からなる作品。第一主題は左右に現れる三連符、右手に現れる4分音符、左手のベースに現れるメロディーの3つの要素から構成されます。また右手の三連符は短二度で動き、4分音符は左手のメロディーを後打ちするかのように書かれることで、これらの要素が合わさり不穏なハーモニーを作り出すので、音同士をあえてぶつけて演奏するように試してください。また、全ての音をぶつけるのではなく、この両外声の音色をしっかり浮立たせることで作品のテーマが見えてくるので、よく理解した上でどの響きが良いか自分の耳で確かめてください。第二主題の調性は変ホ短調から平行調の変ト長調へと移調し、今までの劇的な雰囲気から、優しい穏やかな曲調へと変わります。第82小節目コデッタは、第一主題を使用しながらも音楽は第二主題のようにメロディーを美しく弾きましょう。展開部からはさらに激しくテーマが変容します。再現部へ向かって徐々にダイナミクスが大きくなりますが、そこから再現部へはほとんど同じ強さで始まると思って弾いてください。
・第2楽章:第1楽章からアタッカの表記はありませんが、楽章間を繋いで演奏します。二部形式で構成され、4小節のフレーズで動きます。右手上声部のメロディーとメロディーラインを支える下声部のハーモニーの変化に注目して弾いてください。第25-26小節目のフレーズは度々第2楽章に現れますが、右手Cisis、Disはクレッシェンドせずにディミヌエンドして音を柔らかく抜いてください。第30小節目B部分の左手は、アルペッジョで表記されていますが、第32小節目の左手付点のリズムは左手上声部でFisis、Gis、Aisは右手で取るように運指を工夫してみてください。第104小節目からは補筆部分になりますが、ベーレンライター版ではA部分に回帰して第3楽章へ続いていきます。
・第3楽章:序奏付きの三部形式で構成される楽章と考えられます。序奏は激しいオクターブと左手の順次進行で始まりますが、シンコペーションの4分音符アクセントに重みをおいて、しかし音を重くするのではなく、テンポを揺らさずに長さを保つ、というニュアンスで指をおいてください。第17小節目からテーマが始まりますが左手のオクターブがメロディーです。左手を力みすぎると痛めてしまうのでゆっくり練習する際に次に弾く音のポジションを触ってから弾くようにしてください。また左手はスタッカートが付けられていますので、半分の力で弾くように、しかし音が抜けないように注意しましょう。4小節で一つのフレーズですが、どこがメロディーの山なのかを見定めて弾くことが大切です。2小節ごとに小さなデュナーミクが見えてくると思います。第89小節目B部分は先ほどの第1楽章第二主題とは違う場面の転換です。少し造りは違いますが、第1楽章の音の動きに似ています。どの音を浮立たせるかは奏者によっても様々です、例えば三連符を内声として捉えるか、あえてメロディーと絡ませるように複雑に演奏するか、これは皆さんで決められるのが良いと思われます。補筆された部分、第230小節目からは第1楽章第一主題左のメロディーがメインとなりフィナーレへ向かいます。今までの激しさを経て、現れるのは陰鬱とした和音です。和声一つ一つを重く暗いイメージを持って終わらせてください。