1874年から76年にかけて書かれ、1879年から81年にかけて改訂された曲集で、クリスマス・キャロルからの編曲が数曲含まれている。孫娘であるダニエラ・フォン・ビューローのために書かれたものであるが、最後の3曲が回想的な作品で締めくくられていることは興味深い。というのも、第10曲の『昔々』は、1870年頃から折り合いがうまくつかなくなっていたフォン・ザイン=ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人と出会った頃を回想した作品であり、第11曲『ハンガリー風』と第12曲『ポーランド風』はそれぞれ行進曲とマズルカで、前者がリスト自身を、後者が公爵夫人を描いたものなのである。
第1曲「古いクリスマスの歌」
プレトリウスのコラール主題をもとにして書かれたヘ長調の快活な作品。
第2曲「おお聖なる夜」
「古い旋律によるクリスマスの歌」でミクソリディア旋法の主題が印象的なLentoの静穏な作品。
第3曲「飼葉桶のそばの羊飼たち」
この作品もリスマス・キャロルが用いられたパストラーレで、変ニ長調にはじまりホ長調へ転調し、再び変ニ長調へ戻る。
第4曲「誠実な人々よ来たれ」
この楽曲もまたクリスマス・キャロルがもとになっているイ長調の行進曲風の作品。なお第1曲から第4曲までは演奏楽器が「ピアノまたはハルモニウム」とされている。
第5曲「スケルツォーソ」
「ツリーに点火するとき」という副題の通り、楽しげな情景を描写するヘ長調の音楽で、中間部のオクターヴ奏などは当曲集中で一番の技巧的なパッセージである。
第6曲「カリヨン」
第9曲「夕べの鐘」と共に鐘にまつわる音楽。リストは鐘にまつわる曲をいくつか残している。たとえば「巡礼の年報第1年スイス」の中の『ジュネーヴの鐘S.160-9』や、有名な「ラ・カンパネラ」、ワーグナーが『パルジファル』の中でその主題の一部を用いた『シュトラスブルク大聖堂の鐘』S.6などがある。「カリヨン」は音律が調整された鐘をオルガンのペダル鍵盤のようなバーを押して音を出す仕組みになっている建物と一体化した楽器のこと。イ長調の響きが金属質な鐘の響きを模写するのに一役かっており、「トリルのよう」な反復音が特徴的な曲となっている。
第7曲「子守歌」
嬰ヘ長調で単旋律がトリル・トレモロ風の音型に伴奏されて低音域や高音域にあらわれる変奏曲風のスタイルで書かれている。リストがショパンの子守歌を意識して変奏曲風のスタイルをとったかは定かではないが、演奏者にとってこれは興味深い関連であろう。
第8曲「古いプロヴァンスの歌」
ロ短調の軽快な音楽とト長調の中間部をもつ簡潔な3部構成。短いコーダが付いているが、最後はドミナント上の主和音(第2転回形)に終止している。
第9曲「夕べの鐘」
同じ鐘にまるわる作品でも第6曲「カリヨン」とは対照的な内容で、静穏な雰囲気で変イ長調のフラット系の響きが中心となっている楽曲である。変イ長調とホ長調が交互にあらわれる構成だが、最後に低音で延々と響く変イ音による鐘の模写はワーグナーの『パルジファル』第1幕の鐘を予感させるようでもある。
第10曲「昔々」
ヘ短調を思わせる単旋律、変イ長調を思わせる主部、共に機能和声の感覚が希薄であり、ドミナントの保属音によって調性感をかろうじて維持されている。半音進行する単旋律で楽曲は静かに閉じられるが、終止感はほとんどないといってよい。
第11曲「ハンガリー風」
ハンガリー風の行進曲。増2度音程の使用が「ハンガリー風」という雰囲気を醸し出している。ヘ短調に始まるが、全体に調性は明確でなく、終止音も調性感に乏しい。
第12曲「ポーランド風」
ポーランド風のマズルカ。同曲集中では比較的演奏機会の多い曲であると思われる。導入の単旋律はやはり調性感に乏しいが、この旋律がさまざまに和声付けされる主部のマズルカは比較的調性感のある和音に支えられている。それでもイ短調、イ長調などへ転調して半音階的な和音進行が随所にちりばめられており、この時代のリストの様式を反映している。最後は変ロ長調に終止して晴れやかに楽曲を閉じていることも、演奏機会に恵まれる要因かもしれない。