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バッハ : トッカータ ニ短調 BWV 913

Bach, Johann Sebastian : Toccata d-moll BWV 913

作品概要

楽曲ID:402
作曲年:1707年 
出版年:1801年
初出版社:Hoffmeister & Kühnel
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:トッカータ
総演奏時間:14分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (2)

執筆者 : 朝山 奈津子 (916 文字)

更新日:2007年7月1日
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この曲が「トッカータ第1番」と呼ばれるのは、そのように書き込まれた手稿資料が複数存在するためであり、また7曲のうちではもっとも早く1801年に出版されているからかも知れない。

導入のトッカータ部分、Thema(資料によってはPresto)と題されるフーガ部分、短い動機を連ねた緩やかな推移部、再びフーガ部が始まり、トッカータ風のコーダで終結する。複縦線に従うなら4部構成だが、最後のコーダによって、伝統的な T-F-T-F-T に近い形になっている。

もっとも、最初のトッカータ・セクションでは、第15小節の休符を境にテクスチュアががらりと変化する。さらに言うならばその前の導入部分も、ペダル・バス風に始まり、音階で一気に駆け下り、溜息動機でしばらく進んだのち、ふたたび音階の走句が散りばめられるといった具合で、多様なものが並置されている。

フーガの主題はすでに、トッカータ・セクション後半で準備されている。ただし、Thema とされる最初のフーガ・セクション冒頭は、一般的な主題提示と5度関係での応答ではなく、8度上でなし崩しに模倣されるに留まっており、全体にフーガとしては自由な書法になっている。この印象的な主題は、リズム形を組み替えたり反行や逆行じみた変奏を加えられたりして、いたるところに顔を出したのち、推移部分にも素材を提供する。

2回目のフーガも8度の模倣で始まるが、明確な対主題をもっている。フーガの展開は、最初のThemaに比べれば、より緻密な構成がなされている。

主題は最後の分散和音によるコーダに入っても完全に失われることはない。歯切れの良いリズムがここでは模続進行の流れの中に溶かされて、やがて断片的に浮かび上がり、主題の回帰への期待感を高める。そして最後の3小節でいよいよ主題が再提示されて終結する。

この作品には当時のオルガン音楽の常套句(ペダル・バス、鍵盤の幅をいっぱいに使う音階の走句、分散和音による模続進行等)があふれかえっており、それらの繋ぎ目にややぎこちなさを感じるところもある。しかしこれを統一するのが、Themaにはっきり提示されるリズム形である。動機による統一が見られるのは、7曲中この作品のみである。

執筆者: 朝山 奈津子

演奏のヒント : 大井 和郎 (2565 文字)

更新日:2023年5月15日
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まずは1小節目から32小節目までの部分に関して。冒頭から15小節目の2拍目までは一応拍を認識して弾かなければなりませんが、その上で(拍を理解した上で)、テンポを自由に揺らす、即興的な演奏が必要になります。大きなカデンツは2つあり、12小節目3拍目までが1つ、もう1つは、15小節目2拍目までになります。この2つのカデンツをゴールとして目指して下さい。

例えばですが、12小節目3拍目裏拍より16分音符がスタートしますが、徐々にテンポを前向きに進ませ(多少速め)、14小節目でクレシェンドをかけながら、テンポを今度は逆に引っ張り(多少ゆっくり目)、ゆっくりの状態で15小節目のカデンツに入る、と言った具合です。こうすることで方向性を聴かせることができます。

この、1~15小節間、どこをゴールに持って行くか、カデンツはどこか、しっかり決めておくと良いです(勿論これは主観も入りますので人によって分析方法は異なります)。

15~32小節間はほぼ4声体で進みます。15小節目からはシークエンスが下行しますので、15小節目のダイナミックはフォルテから始めた方が後々辻褄が合います。15小節目をフォルテで始めたら、そこから徐々にディミヌエンドをかけますが、ソプラノの声部をご覧下さい。21小節目1拍目Dまで下行してきたら、そこからシークエンスで最終的に上行していき、22小節目ソプラノはAまで上がり、そこから再び下行を開始します。

24小節目1拍目で再びDに下行した後4拍目でAに上がり、そこからまた下行を繰り返し、28小節目1拍目で再びDに降りてきます。

これら一連の流れから、奏者はどこにゴールを持って行くか、どのグループのテンションが高いか、低いか、主観で決めて下さい。この15~28小節間、プレストの前までは、重厚な4声体で進みますが、ダイナミックはとても平坦になりやすい部分でもあります。そこを気をつけて下さい。 28小節目3拍目Prestoからは、少しだけテンポを上げ32小節目ではテンポをぐっと引っ張り、ゆっくりと終わらせます。

33小節目から120小節目まで1つのセクションとして考えます。この87小節間をどのように演奏するかというヒントは、多くの視点から判断しなければなりません。85小節目辺りから、16分音符4つが出てきます。それまでも出てきてはいるものの、16分音符4つのグループが連続して出てくることはありませんでした。96小節目ではさらに16分音符がが出てきます。

そして111小節目がCodaと考えます。つまり、このセクションは後ろに行けば行くほどテン

ションは高まってくると考えることが出来ます。

さてそれまでの道のりで、我々は何を注意して楽譜を見れば良いでしょうか?1つの考え方としては、この一連のセクションがパイプオルガンで演奏されたとしたらと仮定して考える事もできます。このセクションでは突然2声になってしまう箇所があります。例えば50~54小節間、声部は2声しかありませんね。そこでこれはオルガンの細いパイプのみが鳴っていると考えます。そうするとこの部分のダイナミックは、P であることがわかりますね。逆に4声体(このセクションの最大声部数)の部分はフォルテと考えて良いと思います。

例えば、33小節目、1声でスタートし、34小節目で2声になり、38小節目で3声になり、39小節目で4声体になりますね。1つの合唱隊から始まり4つの合唱隊が重なるところですから、当然歌う人数も増えると考え、声部が多いほど音量は上がると考えてほぼ間違いありません。

そこで、3声部と1声部の部分はのぞき、2声部と4声部の箇所(codaを除く)を書いておきま

す(あまりにも一瞬な部分は除いています)。

2 34小節目

4 39小節目

4 47小節目

2 50小節目

4 63小節目

4 68小節目

4 77小節目

2 78小節目

2 90小節目

4 94小節目

4 105小節目

111小節目でCodaに入ったら、少しテンポを速めても良いと思います。テンションを極端に上げる場所とお考え下さい。

121から123小節目まではレチタティーボと考えます。

124小節目から、145小節目、新しいテーマが出てきます。主題は、124小節目のソプラノを主題と考えます。これが手を変え品を変え、あらゆる調とともに、全声部にこの主題が現れます。奏者は常に、調性を考え、ここに出てくる全ての主題の音量、音質を異ならせるようにしてください。

146~296小節間は最後のセクションになります。前のセクションである、33~120小節間では、2声から4声に変わる途中に必ずと言って良いほど3声が入ってきました。その逆の4声から2声に変わるところでも3声が真ん中に入ってきました。

このセクションも、最初のそのように、3声がサンドイッチの状態で2声と4声の間にはいって進んでいくのですが、221小節目辺りから2声と4声だけが交互に入れ替わるようになります。

先ほど、「2声は例えばパイプオルガンの細い部分が鳴っているように弱く」と言いましたが、このセクションの2声が来る部分というのは、楽器の編成が少なくなっているのか、楽器の種類が変わるのかはわかりませんが、むしろ、テンションが高まる役目を果たす事が殆どです。

これも4声と2声の入れ替わりを書いてみます。(注意:今回は3声体は抜いていません)

4 221小節目

2 226小節目

4 240小節目

2 242小節目

4 244小節目

2 247小節目

3 254小節目

4 262小節目

2 263小節目

4 267小節目

2 278小節目

4 281小節目

2 288小節目

4 294小節目

221小節目以降、254小節目で初めて3声になりますが、あとは2声と4声の繰り返しになります。このセクションも、前のセクション同様に、後ろに行け行くほど16分音符の数が増え始めます。つまりは、曲の最後に近づくほどテンションが上がってきます。

まとめ:これらのセクション全て、大変長く、平坦にとてもなりやすいセクションが続きます。

奏者はこれらのセクションの調、和音、高さ、声部の数、等分析をして、ダイナミック的にも音質的にも平坦な演奏にならないように分析をして、曲にメリハリを付けて下さい。

執筆者: 大井 和郎
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