この曲が「トッカータ第1番」と呼ばれるのは、そのように書き込まれた手稿資料が複数存在するためであり、また7曲のうちではもっとも早く1801年に出版されているからかも知れない。
導入のトッカータ部分、Thema(資料によってはPresto)と題されるフーガ部分、短い動機を連ねた緩やかな推移部、再びフーガ部が始まり、トッカータ風のコーダで終結する。複縦線に従うなら4部構成だが、最後のコーダによって、伝統的な T-F-T-F-T に近い形になっている。
もっとも、最初のトッカータ・セクションでは、第15小節の休符を境にテクスチュアががらりと変化する。さらに言うならばその前の導入部分も、ペダル・バス風に始まり、音階で一気に駆け下り、溜息動機でしばらく進んだのち、ふたたび音階の走句が散りばめられるといった具合で、多様なものが並置されている。
フーガの主題はすでに、トッカータ・セクション後半で準備されている。ただし、Thema とされる最初のフーガ・セクション冒頭は、一般的な主題提示と5度関係での応答ではなく、8度上でなし崩しに模倣されるに留まっており、全体にフーガとしては自由な書法になっている。この印象的な主題は、リズム形を組み替えたり反行や逆行じみた変奏を加えられたりして、いたるところに顔を出したのち、推移部分にも素材を提供する。
2回目のフーガも8度の模倣で始まるが、明確な対主題をもっている。フーガの展開は、最初のThemaに比べれば、より緻密な構成がなされている。
主題は最後の分散和音によるコーダに入っても完全に失われることはない。歯切れの良いリズムがここでは模続進行の流れの中に溶かされて、やがて断片的に浮かび上がり、主題の回帰への期待感を高める。そして最後の3小節でいよいよ主題が再提示されて終結する。
この作品には当時のオルガン音楽の常套句(ペダル・バス、鍵盤の幅をいっぱいに使う音階の走句、分散和音による模続進行等)があふれかえっており、それらの繋ぎ目にややぎこちなさを感じるところもある。しかしこれを統一するのが、Themaにはっきり提示されるリズム形である。動機による統一が見られるのは、7曲中この作品のみである。