変奏曲 ハ長調 (1912年12月24日〜1915年2月5日)
演奏の機会も比較的多い作品である。主題は、母の好んだ讃美歌である。
自筆譜の表紙に以下の記述がある。
母上の好まれたうた。
兄弟そろって
母の病床をなぐさめたうた。
永い眠りに入り玉うた夕
御霊の前にむせんだうた
今其の追憶を辿って
母上のために・・・・。
また、山田はこの変奏曲について、「このヴァリアツィオーネンは、謂ゆる形式上に於けるヴァイアツィオーネンではありません。それがみなさまにどう響くかは分かりませんが、少なくとも私は此の短い讃美歌の一節をもって多様であった、私の母の性格を表はして見た積りなのです。勿論その配合は音楽的気分を基礎としている事はいふまでもありません。」と書き[3]各ヴァリエーションについて以下のように示している。
一番は静かな、敬虔な宗教的な母です。
二番は、軽快な健な母。
三番は非常に几帳面な、しかも判然とした母の一面です。
四番は子供に対する慈愛です。揺監に揺り動かされる幼児の顔を見守っている母の心を写したものです。
五番は精力的な活動的な、母の一部分です。此処までを私は千九百十二年の十二月二十四日に書いた切り、どうしても先きを続ける事が出来なかったのです。さうして去年の二月五日に六番からⅩ番までを書き上げる事が出来たのです。
六番はメランコリックな母の一日です。
七番はいかにも話上手であった母の性格を表はしたものです。
八番は剽軽な母が、子供などと戯れてさまです。
九番は華美な、晴れた心持ちの母の顔でせう。
十番は私が母に対しての讃美の外ありません。
Var.5までは自筆譜が現存しており、自然な強弱記号の自筆譜の表記を採用した。また、自筆譜のヴァリエーション1から5まではドイツ語で冒頭の発想記号が書かれている。以下の通りである。
Var.1 Ruhig 静かに、穏やかに
Var.2 leicht 軽やかに
Var.3 sehr rhythmisch とてもリズミカルに
Var.4 schwankend 揺らいで
Var.5 energisch エネルギッシュに、気力溢れる
また、自筆譜にはVar.6とVar.7、またVar.8の途中までが書かれているが、ばつ印で抹消されている。筆写譜と出版譜にあるVar.6より先の曲は、自筆譜になかったものである。
【楽譜情報】
●自筆譜 Ms.1054(Var.5まで)
●筆写譜 Ms.425(全曲)
●第一法規
●ハッスルコピー版
●春秋社新全集