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ドゥシーク :ピアノ・ソナタ 「プロイセンのルイ・フェルディナント王子の死に寄せる悲歌」 Op.61 嬰ヘ短調

Dušík, Johann Ladeslaus:Sonate für Klavier "Elegie harmonique sur la mort du Prince Louis Ferdinand de Prusse" fis-moll Op.61

作品概要

作曲年:1806年 
出版年:1807年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:13分00秒

解説 (1)

解説 : 川又真子 (2192文字)

更新日:2019年3月6日
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 ヤン・ラディスラフ・ドゥシークは1760年チェコのチャースラフに生まれ、1812年パリで亡く なった。音楽家の父を持ち、幼い頃からピアノやオルガンに親しむ。20代からはピアノ教師として 音楽を教える傍ら、ヨーロッパ各地で自身のコンサートやツアーを頻繁に開きながら生活してい た。ピアノの鍵盤を6オクターブにまで拡大することを提案した1人であり、また、ステージ上にピ アノを横向きで設置する現在の演奏スタイルを考案した人物でもある。  1806年~1807年に作曲された《ルイ・フェルディナント王子殿下の死に寄せる哀歌》は、ドゥ シークが作曲したピアノ曲の中でも特によく知らた作品の1つである。当時、ドゥシークは自身 の後援者であるフェルディナント王子にピアノを教えていたが、その仲は教師と生徒という以上に 親しい間柄であった。良き友人であった彼らだが、不運にも1806年のザールフェルトの戦いでフェ ルディナント王子が戦没してしまう。その後の人生においてドゥシークが塞ぎ込んでしまったこと からも明らかなように、王子の死は彼に大きな精神的打撃を与えた。《ルイ・フェルディナント 王子殿下の死に寄せる哀歌》ではその悲しみが余すところなく語られている。

第1楽章 嬰へ短調 2/4拍子ー2/2拍子 序奏付きソナタ形式

〈この表の見方〉 この形式図は、各段を左から右へと読み、1段目、2段目・・・と上段から下段へと追っていく。 楽曲の構造上、共通する要素が縦に並んでいるため、どこでどのモチーフが表れているのかが一目 で分かるようになっている。なお、各段の数字等の役割は、次の通り。 1行目:セクション名、2行目:小節数、3行目:モチーフ及びモチーフの小節数、4行目:調、 5行目:カデンツ(pedはドミナントの保続低音) 枠外下部の「!」は、カデンツの中断など、聴き手の期待から意図的に逸れる箇所を表す。

[序奏] 冒頭2小節は荘重な葬いの鐘の音を模倣している。その響きに続いて現れるシンコペーション(= 内なる動揺)の旋律は、王子の死を悲しむドゥシークの心情の現れだろう。減七の和音が度々登 場する序奏部では、なかなか調が定まらず、そのことが、さらに彼の落ち着かない心情を強く表し、 また聴き手の悲しみを誘うような効果を強めている。

[提示部] 第1主題は、序奏でも頻繁に使われていたシンコペーションを用いたモチーフから成る(a)。反 対に、第2主題では縦のラインが強調された旋律が用いられている(b)。後者はオーケストラの 響きを持ち、威厳を持って(con maestà)奏でられる。王子を連想させる軍人的性格を持ったモ チーフだ。そのためか調もニ長調と明るくなっている。しかし、第80小節を境にカデンツが中断 され、ロ短調の跳躍するモチーフが登場する(c)。後の展開部で発展するこのモチーフが3度繰 り返されると、新たに装飾的な旋律が現れ(d)、それに続いて16分音符の分散和音(右手)によ る、流麗なモチーフが登場する(e)。  ここまでが第2主題で、第96小節からは展開部へと徐々に推移していく。悲しみとともに(con duolo)などと、楽譜にわざわざ表記されるまでもない程に悲痛な響きを持つ旋律(f)が奏でられ た後、突如として長音階とそれに続く和音の重厚な響きが現れる(g)。わずか4小節で聴き手に ff→p→ffの波乱を経験させるが、この強弱の振れ幅の大きさも、情動の強い起伏を表している。

[展開部] 第2主題を用いて発展していく。提示部と比較すると(c’)の音域の広がりや、(e’’)の小節数の 増加が目に付く。特に(e’’)は2度に渡って展開されており、提示部と比べて両者とも旋律的特 徴が強まっている。時折響くその甘美な性格は皇太子に先立たれた者の回想だろうか。あえて調 を明るくしたことで、悲痛な楽想とのコントラストがより一層引き立てられている。

[再現部] 再び第1主題が回想される。冒頭からここまでで制御できない心の動揺を露わにしてきたが、そ の波乱がここで1度落ち着く。第162小節のdolceには改めて王子を愛おしく思う気持ちが込められ ているのではないだろうか。第166小節からはコーダに入る。第168小節から4回繰り返される gis→fis→eisの悲痛な響きが印象的だ。燃えさかるように(con fuoco)最後の嘆きを強く訴えた 後、6度目の(e)のモチーフがささやくように、常にいっそう消え入るように(sotto voce、 sempre più calando)奏でられ第一楽章が終わる。

【参考史料】

Jan, Ladislav, Dussek. SONATA ‘Èlègie Harmonique’ in F minor, Op. 61. Jeremy Eskenazi. England: Edition HH Ltd., 2012.

Grove Music Online, s.v. “Dussek family, ” by Howard Allen Craw , accessed May 28, 2015,   https://doi.org/10.1093/gmo/9781561592630.article.44229  

執筆者: 川又真子

楽章等 (2)

第1楽章

総演奏時間:7分30秒 

解説(0)

楽譜(0)

第2楽章

総演奏時間:5分30秒 

解説(0)

楽譜(0)

その他特記事項
全音楽譜出版社「チェコ・ピアノ作品集 第1巻」での邦題は【ソナタ「エレジー・ハーモニク」】となっている。