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スクリャービン :ピアノ・ソナタ 第6番 Op.62

Scriabin, Alexander:Sonata for Piano No.6 Op.62

作品概要

楽曲ID:2542
作曲年:1911年 
出版年:1912年 
初出版社:Édition russe de musique
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:12分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:展開1 展開2 展開3

楽譜情報:2件

解説 (1)

執筆者 : 野原 泰子 (903文字)

更新日:2007年6月1日
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《ピアノソナタ第6番》は、《ピアノソナタ第7番》と同時期に書かれている。スクリャービンは《第7番》をとりわけ愛し、好んで演奏会で取り上げたが、その一方で《第6番》の悪魔的な力を恐れ、これを公的な場では決して弾こうとしなかった。

《ピアノソナタ第6番》(単一楽章)は、ソナタ形式の枠組みで書かれている。和声に関しては、《プロメテウス》が神秘和音から作られているように、「八音音階(オクタトニック)」(全音と半音の交互からなる8音)が主に用いられている。

提示部(1~123小節目)冒頭の第1主題では、特徴的な長9度の跳躍が繰り返される。発想標語(「奇妙な、羽のある」)が示唆するように、これは《奇妙》op.63-2などで描かれている、エルフとも昆虫ともつかない「羽や関節のある機敏な女性の生き物」のイデーと結びつくものある。第1主題の後半(11~14小節目)は、旋律に八音音階の要素(f, g, as, b, ces, des)を含む。

繊細で甘美な第2主題(39~46小節目)は、間もなく多様な変形となって組み合わされてゆく。ここでの変化に富んだリズムや、飛翔を思わせる上行のパッセージも、先のイデーに関わるものである。こうした音楽表現と結びついて、このイデーはソナタを通して重要な役割を果たしてゆく。提示部の終わりに、八音音階の動機が全面的に展開して高揚を生みだす。

展開部(124~206小節目)は、両主題の動機からなるフレーズ(上述のイデーと結びつく)に始まる。やがて第2主題(158小節目~)が現れるが、ここには光輝を表現する装飾音(トリルやトレモロなど)が組み合わされる。展開部の終盤では、第1主題(後半)が熱狂的な変形となって現れる。その八音音階の動機が拡張してゆき、熱狂の頂点で再現部に入る。

再現部(207~297小節目)では、提示部が長2度/減3度下で繰り返される。第2主題には装飾音形が加わり、光輝が表現される。

コーダ(298~386小節目)で、恐怖の入り混じるデュオニュソス的な躍りの場面を迎える。両主題は断片的で軽快なリズム変形となり、飛翔と下降を繰り返しながら、目まぐるしく過ぎ去ってゆく。

執筆者: 野原 泰子