「トッカータ」は、おもにバロック期において、ファンタジーやプレリュードなどと同様に好んで作曲されたジャンルであり、鍵盤楽器用のトッカータは即興的な速いパッセージを特徴とする。バロック期以後、このジャンルは他の楽曲ジャンルの中に取り込まれて次第にその名は影を薄めていった。シューマンは『トッカータ』Op.7、リストは『トッカータ』S.197aをそれぞれ残しているが、これらは19世紀の代表的なピアノ作品においては数少ない例である。
プロコフィエフはシューマンの『トッカータ』に触発されて、1912年にこの『トッカータ』Op.11を作曲したという。プロコフィエフの『トッカータ』は、同音連打によって特徴づけられた楽曲のように思われるが、オクターヴや重音によるパッセージの連続は、たしかにシューマンの『トッカータ』からの影響を想起させる。
左右の手が重なる音域や、跳躍して交差する音域が選ばれ、密集した音響によって特徴づけられた部分から、音域を上下いっぱいに反行しながら拡大した開放的な音響へといたってクライマックスを築き、5オクターヴのグリッサンドによって楽曲が締めくくられる。