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チャイコフスキー : 「四季」-12の性格的描写 6月「舟歌」 Op.37bis ト短調

Tchaikovsky, Pytr Il'ich : Les saisons - 12 Morceaux caracteristiques No.6 "Barcarolle" g-moll

作品概要

楽曲ID:22155
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:舟歌
総演奏時間:4分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:展開1 展開2 展開3

楽譜情報:27件

解説 (2)

解説 : 山本 明尚 (580 文字)

更新日:2019年6月25日
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岸に立てば 寄せる波

僕たちの足に接吻するだろう

星は神秘的な哀愁とともに

僕たちの上に光を放つだろう

エピグラフはプレッシェーエフ(プレシチェーエフとも)の「歌」(1845)より。一人称複数の「僕ら」は、詩のその後の展開を読むに、若い恋人なのだろう。

ト短調の主和音による寄せては返す波のような緩やかな伴奏を前奏として、チャイコフスキーが得意とする、音階上の順次進行をベースにした旋律が奏でられる(他の例は、例えば交響曲第4番の最終楽章や、《くるみ割り人形》のパ・ドゥ・ドゥ、弦楽セレナーデの第23楽章などにみられる)。一般に舟歌は6/89/8といった複合拍子で作曲されることが多いが、興味深いことに、チャイコフスキーは4/4拍子を選択している。

短い中間部では同主長調へと転じ、次第に速度を増していき、「giocoso(快活さをもって)」という指示のもと、3/4拍子でクライマックスに達するが、その快活さは長続きせず、高音部でのきらびやかなアルペジオで中断され、主要部の再現へと回帰する。出版者ベルナルトは、このアルペジオの響きから、星の瞬きを見出し、エピグラフを選定したのかもしれない。

執筆者: 山本 明尚

演奏のヒント : 大井 和郎 (1486 文字)

更新日:2018年3月12日
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6月「舟歌」

この曲の難しいところはBセクションの技術であると思います。故に、例えば小学校の子供にとって一般的には簡単に弾ける曲ではありません。しかしながら多くの事を学べる曲である事も間違いありません。学校の音楽の教科書では、4分の4拍子は強拍、弱拍、中強拍、弱拍と書いてあるのを見た事がある方も多いと思います。実際は、多くの古典音楽の場合、1拍目は決まって弱い音量である事が多く、この曲もその典型です。

この曲は、メロディーラインの最後の音や、その中の細いフレーズの最後の音は、1拍目で終わる事がほとんどです。そしてその1拍目は必ず消えるように力を抜きます。前の音と同じ大きさであったり、アクセントなどをつけてはいけません。基本的なシェーピングは次の通りです。

2小節目3拍目裏拍から右手のメロディーラインが始まり、Dからスタートし、3小節目の3-4拍目で頂点に達し、4小節目で少し弱くなり、5小節目でさらに弱くなります。この曲の場合、メロディーラインの音の高さが感情の強弱と一致すると考えて間違いありません。

和声進行の変化も見逃さず、敏感に感じるようにします。例えば、7小節目の4拍目FACEsと、18小節目の1拍目DFisAは、それぞれ、3小節目の4拍目、14小節目の1拍目とフレーズ的には一致する場所ですが、全くムードが異なります。それぞれカラーを変えたり、音量を変えたりして変化させます。心理状態を今の例で説明しますと、13-14小節目、感情は穏やかで微かな希望もありますが、17-18小節目は現実的で、悲しみの表現です。これは一例に過ぎませんが、奏者の考えるように感情を変化させます。

多くの奏者がトラブルになる箇所がBセクションにあります。一般的なBセクションの注意点を述べます。

◉ Aセクションと同じく、各小節の1拍目は和音の解決する場所が多くあります。決してアクセントをつけないように注意します。

◉ 36-39小節目、左手の2度を出すようにします。この場合後続の音符の方を弱くします。

◉ 40-49小節目、即興的に演奏します。アーティキュレーションも大切ですのでスタッカートを守ります。

◉ 47小節目の2拍目よりムードを一変させます。悲しみの表現です。そしてそれは次第に感情的になり、50-51小節目のカデンツに達します。

◉ 50-51小節目のカデンツが技術的に困難であるがゆえに、多くの奏者はここでテンポをがっくりと落としてしまいます。しかしながらマーキングは、poco riten です。49小節目と50小節目はほぼ同じテンポで進みます。ここは注意してしっかりとカウントしてください。このカデンツのアルペジオマーキングは下から上まで切れ目がありません。つまり左右の手を同時にアルペジオにするのではなく、左手から始まり右に移します。

◉ ところが実際弾いてみるとわかるのですが、48小節目にstringマーキングがあり、テンポをどんどん速くしていかなければなりません。個人的な考え方になりますが、そのようなテンポの状況で、50-51小節目を左手から右手に移行するアルペジオを守ると時間的に無理が起こります。そこで、左手から始まるのはそれで良いのですが、左手が終わる前に右手のアルペジオをスタートさせ、オーバーラップさせます。そうでもしない限り、ここ50-51小節目のカデンツは大変困難になります。別の言葉で言い換えれば、オーバーラップさせてでも、テンポを守って欲しいです。それほどテンポは重要であり、ある小節から勝手に倍近くのテンポになったりしないようにします。

執筆者: 大井 和郎

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