この《ノクターン 嬰へ短調》は、1822年に作曲された。ノクターンの創始者とされるアイルランドの作曲家ジョン・フィールド(1782−1837)の最初のノクターンは、1812年に作曲されており、ショパン(1810−1837)のノクターンの作曲年は、諸説あるにせよ、早くても1825年以降のことである。リヴァディッチのノクターンは、おそらく、当時のヨーロッパでよく知られていたフィールドの影響を受けて作曲されたものと思われるが、ショパンのノクターンがまだ生まれる前の作品として、大変興味深く、貴重な作品と言えるだろう。
このノクターンは、出版されることのないまま、手稿の状態で100年以上も眠っていた後に見つけられ、クロアチア人ピアニストのスヴェティスラヴ・スタンチッチ(Svetislav Stančić, 1895−1970)により、クロアチア音楽協会(Hrvatski Glazveni Zavod、略称HGZ)主催の演奏会にて、1927年2月25日にザグレブで初演されている。しかし、当時の音楽評論家達の関心は、もっぱら民族主義的な音楽に向けられており、この忘れられていた音楽遺産の発見と再評価に特別な興味を示すことはなかったようである。その後、1962年、クロアチアの著名な音楽学者ヨシプ・アンドレイス(Josip Andreis, 1909−1982)の研究によって、その価値が見直され、1975年になってようやく、クロアチア音楽協会より楽譜が出版された。
詩的なインスピレーションやロマンチックな起伏、若々しい率直さや躍動感に溢れた魅力的な作品である。
参考文献:
Andreis, Josip. (1989), Povijest glazbe 4. Zagreb: SVEUČILIŠNA NAKLADA LIBER