作品概要
解説 (3)
総説 : 白石 悠里子
(297 文字)
更新日:2014年9月4日
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総説 : 白石 悠里子 (297 文字)
1908年夏のローザンヌ滞在中に、オペラ《ペネロープ》制作の合間を縫って作曲が開始された。書簡の記述から、9月15日の時点でほとんど完成していたことがうかがえるものの、自筆譜には1908年11月という日付が記されている(※1)。初演に関する情報は《ノクターン》第9番と同様に不詳であるが、ブリュネ=ルコント夫人Mme Brunet-Lecomteに献呈されている。ウジェール社との契約履行のために書かれた作品であり、1909年に同社より出版された。
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※1. 楽曲の最後に,署名とともに「Novembre 1908」という日付がある(MS 17760、フランス国立図書館所蔵)。
成立背景 : 白石 悠里子
(587 文字)
更新日:2014年9月4日
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成立背景 : 白石 悠里子 (587 文字)
1905年に交わしたウジェール社との契約を守るために、オペラ《ペネロープ》(1907-1912)の作曲の合間に書かれた。1908年9月10日に静養先のローザンヌから次のような手紙を妻に宛てて送っている。「ウジェール社にピアノ曲を一つ渡せるように《ノクターン》第10番を作曲すべく、二日間《ペネロープ》の仕事から離れたよ。明日にはきっと、このノクターンは仕上がるかかなり進むだろう。再び《ペネロープ》に取り掛かり、新年度の前日にはこのピアノ曲の終止符を打てるようにするためにね。」(※1) 5日後の9月15日の書簡では、《ノクターン》第10番には終止符が打たれ、これまでの9曲のノクターンに属するものとなることを期待する旨が綴られている(※2)。したがって、この曲が数日の間にほとんど仕上げられた様子が読み取れる。
同じ頃に作曲されたと見られる《ノクターン》第9番と同様に、短い楽想を楽曲全体にわたって模倣する手法が取られている。この点において、フォーレの後期ピアノ音楽の様式的特徴を示す作品の一つと見なされている。
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※1 Gabriel Fauré, Lettres intimes , présentées par Philippe Fauré-Fremiet, Paris, Bernard Grasset, 1951, p. 167.
※2 Ibid.
楽曲分析 : 白石 悠里子
(728 文字)
更新日:2014年9月4日
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楽曲分析 : 白石 悠里子 (728 文字)
ホ短調、4分の4拍子。冒頭のリズム・モティーフをそのまま引き継いで用いる形で楽曲がまとめられており、《ノクターン》第9番と共通する手法が用いられている。冒頭主題(第1-8小節)は第30小節からオクターヴ上の旋律線によって一旦回帰するものの、それ以降に登場することはない。この点では、冒頭主題がしばしば回帰する第9番(第11小節以降、第34小節以降)の構成とは異なっており、同時に、楽曲形式を捉えにくくもしている。しかしながら、この第10番では形式よりも、むしろ類似するモティーフが連なることで生み出される変化に焦点が当てられるべきかもしれない。
例えばフォーレの弟子、ケックランはこの作品について「《ノクターン》第10番は非常に単純で、動きの少ないフレーズによって始められ、一見すると『何でもないように』見える。」と評しているが、他方でバスとソプラノ、そして16分音符による内声によって構成されるフレーズが、フォルティッシモ(第58-61小節)で示されるクライマックスには欠かせないとも述べている(※1)。このケックランのコメントからは、同じリズム・モティーフが繰り返される分、ダイナミクスの変化に注意が払われるべき作品であることが読み取れる。
ピアノ(p)とフォルテ(f)の交替によって緩急が付けられるこの曲において、特にホ長調へと調号が変化する第50小節からはピアノ(p)から第58小節のフォルティッシモ(ff)まで、半音階的な上行音型とともに畳み掛けるように音量が増大して曲中の見せ場が築かれている。
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※1 Charles Kœchlin, Gabriel Fauré , Paris, Félix Alcan, 1927, p. 101.
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