ホ短調、4分の4拍子。冒頭のリズム・モティーフをそのまま引き継いで用いる形で楽曲がまとめられており、《ノクターン》第9番と共通する手法が用いられている。冒頭主題(第1-8小節)は第30小節からオクターヴ上の旋律線によって一旦回帰するものの、それ以降に登場することはない。この点では、冒頭主題がしばしば回帰する第9番(第11小節以降、第34小節以降)の構成とは異なっており、同時に、楽曲形式を捉えにくくもしている。しかしながら、この第10番では形式よりも、むしろ類似するモティーフが連なることで生み出される変化に焦点が当てられるべきかもしれない。
例えばフォーレの弟子、ケックランはこの作品について「《ノクターン》第10番は非常に単純で、動きの少ないフレーズによって始められ、一見すると『何でもないように』見える。」と評しているが、他方でバスとソプラノ、そして16分音符による内声によって構成されるフレーズが、フォルティッシモ(第58-61小節)で示されるクライマックスには欠かせないとも述べている(※1)。このケックランのコメントからは、同じリズム・モティーフが繰り返される分、ダイナミクスの変化に注意が払われるべき作品であることが読み取れる。
ピアノ(p)とフォルテ(f)の交替によって緩急が付けられるこの曲において、特にホ長調へと調号が変化する第50小節からはピアノ(p)から第58小節のフォルティッシモ(ff)まで、半音階的な上行音型とともに畳み掛けるように音量が増大して曲中の見せ場が築かれている。
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※1 Charles Kœchlin, Gabriel Fauré , Paris, Félix Alcan, 1927, p. 101.