1822から1823年にかけての冬に成立したヴィルヘルム・ミュラー(1794~1827)の詩に基づく、24の連作歌曲集。原詩は、1823年に刊行された文芸雑誌『ウラニア』に冒頭12篇のみ掲載された後、詩人自らによる詩の配列換えを経て、1824年に24篇の最終稿として出版された。シューベルトは1827年2月、『ウラニア』に沿って12篇に付曲したが、それが完全版でないことを知り、1827年10月に残る12篇にも曲を付け、第2部として付け足した。
詩に描かれるのは、恋に敗れ、冬の夜に独りで旅に出た主人公の心象風景である。表題には目的地の定まった移動を表す「旅Reise」という語が用いられているが、実際にはあてのない「放浪Wanderung」が主題となっている。本詩集の、ひいては本歌曲集の最たる特徴は、明確な筋書や物語がない点にある。ミュラー/シューベルトによるもう一方の連作歌曲集《美しき水車小屋の娘》では詩の連続によって物語が展開するのに対し、《冬の旅》では主人公が幕開けですでに失恋状態に立っており、踏み迷う主人公の心象風景が詩集全体で淡々と綴られるに過ぎないのである。こうして、社会から孤立した主人公の自己疎外感が、全篇を通してクローズアップされる。
「身の毛もよだつような歌曲集」と作曲者自身が口にしたと伝えられるように、詩集のテーマに対応して、短調が全曲を通して支配的である。短調は主として現実描写に用いられ、長調で理想が語られても、往々にして仕舞いには短調へと引き戻されてしまう。後年のシューベルトは、《死と乙女》として知られる弦楽四重奏曲D 810において全楽章を短調に置くなど、短調作品に正面から取り組んでおり、本詩集が彼の興味を湧き立たせる素材であったことは間違いないだろう。
「連作歌曲集」の名に相応しく、各曲は様々に連関し合っている。例えば動機に関しては、第4曲結尾と第5曲冒頭の連続性や、第1曲の六度跳躍が第11曲で回帰すること等が挙げられ、各曲の調関係にも趣向が凝らされている。