本作品には2つの稿が現存する。第1稿は1853-54年に作曲、ジムロック社から出版された。そして1889年に作品の出版権がブライトコプフ・ウント・ヘルテル社に移った際、ブラームスは主題の差替え等、大幅な改訂を施し、今日一般に演奏される稿を完成させた。
第1楽章 Allegro con brio 2/2 ロ長調
主題はピアノ・ソロに導かれ、初めピアノとチェロで奏される。音楽はリズム、和声、強弱全ての面から次第に勢いを増す。第1稿とは異なり、フォルテで初めてヴァイオリンが入って、主題がより旋律的で均衡のとれた楽節となる。主題の3度下行は、移行部にかけて動機操作の中心的素材の1つとなる。
第1稿のものに代わる新たな副主題は、旋律の跳躍やバスの半音階など主要主題と対照的な点が多い一方、弦楽器が後から旋律声部に加わって主題がより旋律的になる、後々動機が切迫するといった点は主要主題と共通する。第100小節からはピアノのシンコペーションと副主題の装飾変奏により、音楽は推進力を増して小結尾へ向かう。
展開部は充実した動機操作の場。前半では第127小節のe-mollの確立を皮切りに小結尾の動機の模倣処理が始まる。第137小節で主要主題断片が短調で現れると、ピアノが小結尾の動機から和音進行で伴奏音形を展開する。ここでピアノ伴奏を導く動機を元に後続部分の模倣が展開される。第162小節で、再び主要主題を境に音楽は移行部由来の局面へ入る。
第175小節からは、展開部の大半で対を成していた弦パートが独立し、楽章内で初めて弦がピアノパートを囲む。
この新しい響きの中、音楽は一時盛上りを見せるが、すぐ全体の音域が下がり始め、そのエネルギーは減じていく。弦パートがユニゾンへ収束、ピアノも下行をやめたところで、ヴァイオリンの最低音域から主要主題がgis-mollで再現する。調と主題の二重回帰はピアノが旋律声部となる第197小節で達成される。h-mollの副主題までの嬰ト→ロの調構造は呈示部と対称関係にある。なお移行部は、展開部の後半にも用いられたためか、再現部では短縮される。
コーダ前半は主要主題動機の変奏。後半は旋律的で纏まった楽節よりも連続的な和音呈示を主眼とする。ここは強弱とテンポの変動などが掴みどころのない印象を与えるが、in Tempoに入ると一転、畳みかけるような弦とピアノの応答となり、音楽は決然とフォルティシモを指向する最後の盛上りを見せ、改め終止で楽章が終わる。
第2楽章 Scherzo allegro molto h-moll 3/4拍子
複合3部形式。スケルツォ呈示部では主題が声部間で模倣される。中間部では主題4小節が若干の変更を伴い、音高を上げながら連続する。第53小節で、それまで小結尾から続く保続和音に抑制されていたエネルギーを発散するかの如く、音楽がリズミカルで力強くなる。この8小節は音域を6オクターヴに拡大し、ヴァイオリンを旋律に加えて反復され、クライマックスを形成する。エネルギーは収まりきらず、低音の半音階上行と第93小節からの動機の切迫によりもう1度噴出する。その後声部の動きは静まるが、引き続き和声的緊張が保たれる。
再現部は楽器法の変更などにより呈示部と対照づけられる。息の長いフレージングの対旋律はMeno allegroの主題の先取である。
H-durのMeno allegroはスケルツォと対照的に抒情的だが、両者は旋律や動機の共有により、密に関連し合う。旋律声部の楽器の組合せは楽段毎に変わる。全体の響きは次第に融合、拡大し、ヴァイオリンがオクターヴ和音のトレモロとなる最後の主題呈示で頂点に達する。
スケルツォ主部の反復の後、既出素材に基づくコーダとなる。和声は長7和音と減7和音の明暗の交替を経て、最終的にピカルディー終止に落着く。
第3楽章 Adagio H-dur 4/4拍子
ABA’の3部形式。A部の主題はピアノと弦パートの応答。B部は快活な主題、付点リズムの動機による応答、主題変奏から成る。主題のリズムと跳躍音形はA部の主題後楽節を思わせる。A’部ではピアノが後楽節を装飾し、切れ目なく続くピアノの音色と声部進行がA'部全体の統一感を高めている。
H(A部)→Gis(B部)という第1楽章と共通の短3度関係の調構造は、既にA部の主題(H→gis、第7-13小節)に先取される。B部への移行や再現部冒頭に見られるように、H-durの下属調でありgis-mollの平行調であるE-durが転調の鍵となるのだが、ブラームスはE-durを単なる転調の媒介ではなく、楽章の主要調として重視したようだ。B部の付点リズム動機の応答でE-durへ転調することがこの証拠となろう。
第4楽章 Allegro 3/4 ロ短調
初期稿から大幅に短縮されたロンド形式。冒頭の保続音ロ音が主調を保証するとはいえ、主題の付加6の和音での開始、属調の導音進行eis→fisの反復は聴く者に違和感を与える。決定的な主和音解決なしに主題確保へ入ると、主題後楽節でト長調へ転調するのを機に転調プロセスが始まる。
クプレ(第64小節∼)は、平行長調での開始、ピアノの旋律声部、躍動的な伴奏などの点でロンド主題と対照的。後半では、動機の切迫によって勢いを増した淀みない音楽の流れに、アクセントを伴う増4度と低音の半音階が介入し、和声的に不安定な局面へ移行する。
2回目のロンド主題は、ピアノによる旋律、楽器間の伴奏音形の応答など、音色、構成共に冒頭から変化が付けられる。主題確保は前楽節のみで、第137小節からロンド主題の冒頭と末尾の動機を中心とする動機操作の場となる。
移行部の素材を挟み、第205小節からクプレの再現がH-durで始まる。続いてエピソード終盤の減7和音第7音を繋ぎとして次のセクションへ移行する。ここではピアノの分散和音が主音または属音上で減7和音、9の和音を示し、和声的緊張を持続させる。
第266小節から明確なh-mollの和声進行で弦とピアノが力強い和音の応答となる。ここでトニック解決は避けられ、続く主題再現はe-mollで始まる。これは巧みな措置である。主題の原形が属調の導音進行を含むため、下属調で始めれば結果として最後の主題呈示で主調が強調されるというわけである。
もっとも主調の真の安定は遠く、コーダでもなお調は近親調を浮遊する。コーダ終盤では主題動機が音高を上げつつ連続し、主調終止カデンツに入って更に細分化、切迫して音楽が最後の高揚を見せる。最後は3小節間の主和音で曲が終わる。