作品概要
作曲年:1826年
出版年:1826年
楽器編成:ピアノ合奏曲
ジャンル:ポロネーズ
総演奏時間:32分30秒
著作権:パブリック・ドメイン
ピティナ・ピアノステップ
23ステップ:展開1 展開2 展開3
楽譜情報:2件解説 (3)
総説 : 堀 朋平
(907 文字)
更新日:2018年3月12日
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総説 : 堀 朋平 (907 文字)
シューベルトのピアノ舞曲
19世紀初頭は、18世紀に流行した貴族的なメヌエットが、より民衆的でダイナミックなドイツ舞曲やレントラーに座をゆずった後、やがて華やかなワルツに移行しようとしていた時代である。2手用と4手用あわせて約650曲に上るシューベルトのピアノ舞曲も、これら3拍子系の曲種を中心に伝承されている。ヴィーン会議(1814~15年)後に隆盛を見たワルツのリズムをシューベルトも愛したが、残された楽譜を見るかぎり、作曲家が「ワルツ」の名称を使ったのは1回だけであった。この事実からも、各舞曲の性格はそれほどはっきり区別されていなかったと考えてよい。
シューベルトにとってのピアノ舞曲は、まずは内輪の友人たちの集いにBGMを提供し、なごやかな社交の雰囲気を作り出す曲種だった。やがて腕前が世間に知られていくにつれ、公の大きなダンスホールに招かれてピアノを弾く機会も増えていった。その場の雰囲気にあわせて即興で弾いた曲のなかから、特に気に入ったものを後で楽譜に清書していたらしい。そうして書きためられていった舞曲は、歌曲と並んで初期の出版活動の中心をなした。
シューベルトがピアノ舞曲を弾く様子は、友人たちの数ある証言のなかでも最もしばしば、そして生き生きと回想される場面の一つだった。それらの証言が12月~2月に集中しているのは面白い事実である。南方とはいえヴィーンの冬は厳しい。彼らは寒い夕べに皆で集い、心身の暖を取っていたのである。そんなある夜、人生に疲れた親友をシューベルトの即興演奏が癒す様子を描いた詩すら残されている。こうした場面はシューベルトの音楽の原風景をなすものであり、そこで生まれた舞曲は、時に精神のドラマをはらむ緊密なチクルス(まとまった曲集)にまで発展することがあった。この性質をよく認識していたのがロベルト・シューマンである。シューベルトの舞曲チクルスのいくつかは、やがて《ダーヴィド同盟舞曲集》(1837年)につながるほどの緊密な作品集になっているのである。
友情、社交、そして精神の旅路――この3つの領域をゆるやかに横断しつつ、シューベルトのピアノ舞曲は人の心と身体を暖めてくれる。
成立背景 : 堀 朋平
(304 文字)
更新日:2018年3月12日
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成立背景 : 堀 朋平 (304 文字)
《6つのポロネーズ》(D 824)は1826年4月に1番から4番までが一続きの楽譜に書き取られ、その3か月後にはカッピ&ツェルニー社からの出版告知が出ている。《4つのポロネーズ》(D 599)と同じく、成立背景にかんして友人たちは何も証言を残していないが、作曲から出版までの期間が短いこと、自筆譜の筆跡がシューベルトにしては珍しく乱雑であることから、出版を求められて急いで書かれたものと推察される。そうした事情もあり、自筆資料の状況はシンプルである。つまりD 599のように、すでに書いたものに手を加えて曲集を編み上げた形跡はないため、作曲家は当初から6曲の構成を念頭に置いて頭から書いていったにちがいない。
楽曲分析 : 堀 朋平
(1890 文字)
更新日:2018年3月12日
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楽曲分析 : 堀 朋平 (1890 文字)
各曲ともにそれぞれ繰り返しを持つ主部とトリオからなる点で、基本的な作りは前作《4つのポロネーズ》(D 599)と同じである。だが、8年の時を経て、しかも曲数を4から6にまで拡大して書かれた本作には、次の点で明らかな深化が見てとれる。
まず調的には、主部の後半で早くも遠隔調に移る手法が多用されている(第3番、第4番など)。この手法は、各曲での色彩の幅をさらに広げる効果を持つだけでなく、全6曲を互いに関連した作品として構成する意図とも関わっていよう。つまり、これらの遠隔調は前曲をふと回想したり、あるいは性格を異にする次曲の調を予告したりする機能を持つ。前曲集D 599(たとえば第2曲)でも垣間見られたこの手法をさらに洗練させることで、本作は、曲間の相互ネットワークを飛躍的に拡大している。全6曲を通して弾くことで初めて個々の意味が分かってくることも多く、その意味でロマン派のチクルスと呼ぶべき性格が色濃くなっている。シューベルトのポロネーズにシューマンが讃嘆を漏らした理由もわかるというものだ。
次に主題法の点でいうと、明らかにポロネーズ的でない主題が頻繁に登場する点が目を引く(第2番、第4番のトリオ、第6番の主部など)。こうした多彩さが調の構成と手をたずさえることで、全体はより深く大きなアーチを描くにいたっている。
最後に、各形式部分のバランスについて。前作では、主部とトリオの小節数の比率は比較的自由であったが、主部の前半と後半の比率は統一されていた。本曲集ではこの比率も多彩になっている。
第1番(ニ短調/変ロ長調)
前曲集D 599と同じくニ短調で幕を開けるが、低音主体の重厚さが特徴である。チクルスはまだ「厳かにまどろむ世界」(シューマン)にあるようだ。主部の終結部分では、前曲集には聴かれなかったナポリ和音が現れる。トリオの後半部に、シューマンなら「雷雨」と呼ぶだろう激しい楽節がにわかに集中しているのは、異例である。
第2番(ヘ長調/変ニ長調)
一転して高音の華やかな主題は、8小節からなるものの、拍節感覚を意図的にぼかしている。半終止(第8小節)を経て変ロ長調に逸れる意外性は、本作においてこの調が特別な意味を担うことを示すものだろう(後述)。トリオは、この時代には珍しいロマン的な調をとる(D 599/3参照)。本作で手の交差は見られないにせよ、トリオの14小節目、プリモ左手の舞い上がる音型は(セコンド右手との関係で)自ずと手をすぐ離すように書かれている。二人の奏者がスリリングに接近する貴重な箇所である。
第3番(変ロ長調/ト短調)
表現の幅や精巧さの点で全体の頂点をなすといえよう。冒頭主題は、むしろ(実際たとえば前曲集4曲目のように)トリオから取ってきたかのごとく柔らかいものだ。第13小節で響く変ニ長調と、主部の終わりで聴かれる勇ましいニ長調和音は、いずれも前曲および次曲をチクルス的にほのめかしている。トリオ第13小節の走句には曲集で唯一の情熱が宿る。トリオ最後の8小節、セコンド右手に現れる特徴的なバス声部は、チェロの運弓と音響を想定して書かれたものだろう。
第4番(ニ長調/ト長調)
D [B] - G 前曲までのロマン性からうって変わって、調構成は5度圏に基づく単純なものに回帰し、♯系の明るい響きと素早さを特徴とする。ただし主部後半では前曲までの変ロ長調世界が明るく回顧される。1825年ころ以降のシューベルト歌曲では、明るいニ長調とおぼろな変ロ長調が、じつは「現実と理想」の意味をもって対比されることがしばしばある。舞曲チクルスにも、この種の表現手法がジャンルを越えて生かされている事例が少なくない。常に弱音に抑えられたトリオでは、プリモが対位法を披露する。
第5番(イ長調/ニ長調)
前曲の主題が、いわば変奏曲のクライマックスから取られたようであったのと似て、弱音で何気なく始まる第5番の主題も、楽曲の中ほどから始まるさりげなさを持つ。音量の上でも主題的にも、全6曲にあって総じて平坦で抑えめである。
第6番(ホ長調/ハ長調)
E [e] – C [G] 曲集において唯一、最強音による祝祭的な和音で開始される。もっとも技巧的で音量も大きい。トリオは音が薄く高音を主体とするが、最も注意を引くのは、ここでハ長調が曲集で初めて現れるという事実である。かつ、主調からサブメディアント(長3度下)の関係で現れるため、それはきわめて新鮮に響く。後期のシューベルトがこの単純で原初的な調に十分な重みを置いていたことを、この最終曲は物語ってくれる。
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