セヴラックの作品には組曲の形式をとるものが多い。《大地の歌》もこの形式をとっており、組曲《ラングドック地方にて(1903~1904)》、《セルダーニャ(1908~1911)》、と並んでセヴラックの重要な作品の一つである。1900年に作曲された。「7部からなる農事詩」という副題がつけられており、各曲に詩がつけられている。自由で独創性に富む後の諸作品と比較すると、この頃の書法にはまだ厳格さが残っており、作曲の師ヴァンサン・ダンディの影響が認められる。ところどころに旋律の未熟さや、不器用さはみられるものの、絵画的イメージの喚起をめざすそのピアノ書法の中に、独創性が芽生え始めていることをコルトーは指摘している。地の底からわきあがってくるようなプロローグから天空に消えていくようなエピローグまで、まさに一つの大きな自然のサイクルが描きだされている。どの曲にも、絶えず移ろいつづけていく自然の姿が感じられ、「田舎の作曲家」と形容されるにふさわしい、大地の香り豊かな一曲である。
1.序曲(大地の魂) / Prologue:一ページ強の短い序曲。「主題の提示」では、拍子、縦線はかかれていない。厳粛な雰囲気の中で、グレゴリオ聖歌のような旋律が祈るように歌われる。この主題は、後に変形された形で何度か登場するが、それによって曲全体に統一感が与えられている。
2.耕作 / No.1"Le Labour":畑仕事を描いた曲。序曲に続き、重みのある雰囲気をもっている。リズムはのっそりとした牛の歩み、左の伴奏は耕されていく土のようであり、旋律は澄みきった空気のように絶えず流れ続ける。終結部「愛されしもの」では、重苦しさがなくなり、夢見るような高音が響きわたる。
3.種まき / No.2 "Les Semailles":畑仕事を描いた曲。4分の6拍子。8分音符の伴奏は微妙に変化しながら、揺れるような動きを静かに繰り返し続ける。付点のリズム音型を伴いながら歌われる右手の旋律は初々しく、春の希望にみちている。「天使」と註が記されたところでは、ひそやかな鐘の音が遠くからきこえてくる。
4.間奏曲-夜のおとぎ話 / Intermezzo "Conte á la Veillée":おばあさんが語る夜のおとぎ話が題材になっている曲。4分の5拍子で静かに歩みすすめられていくその曲調はムソグルスキーを想わせる。民俗的な懐かしさや、素直な優しさを兼ね備えた旋律に、ほっと一息つくことができるだろう。
5.雹/ No.3 "La Gr êle":組曲で最も盛り上がりをみせるこの曲では激しく降り注ぐ雹(ひょう)を描いている。ここでもムソグルスキーの影響が感じられる。「祈願行列」の部分では、田畑の無事を祈る人々の哀願。音の高まりとともに、その想いも激しいものになっていく。遠くからきこえる「弔いの鐘の音」。ピレネーのいくつかの地方では、嵐の時に鐘をならす習慣がある。嵐が静まってゆくのと同時に左手の音符の数が徐々に減り、音量もppppまで落とされる。最後は消えるように曲をとじる。
6.刈り入れ時 / No.4 "Les Moissons":冒頭から秋の空気を感じさせる3度の和音が清清しく響きわたる。収穫の祭りである。そこには重々しい空気はもうない。2拍子系のスウィングにのせて、人々の胸の弾みや喜び、感謝の気持ちが表現されているかのようだ。〈プロローグ〉、〈耕作〉でみられた主題が再度登場し、曲全体に統一感を与えている。終わりに響く婚礼の鐘は、終曲のにぎわいを暗示している。
7.エピローグ―婚礼の日 / Epilogue "Le Jour des Noces"
組曲《大地の歌》は、婚礼の歓喜の中で終結を迎える。8分の3拍子のリズムにのせて、活気に満ちた旋律が賑やかに歌われる。ここできかれる「大地の歌」は、神々しいほどの光を帯びた“大地の賛歌”である。空に溶けていくような音色で奏される。夜明けを告げる鐘がなり、音楽は再び、果てのない自然の中に包み込まれるようにして消えていく。