1.祭の農家をめざして / No.1 "Vers les mas en fete":一日のはじまり。音の数を増やしながら、山間からの急流が勢いを速めていく。中間部は「泉での休息」。漂うように揺れる3連音符に左手が推進力を与えている。「祭りの日の畑屋敷」は、4分の4拍子。活気に満ちた祭の主題の合間にも、夕暮れの空気が漂いはじめている。最後は「夕べに響く鐘の音」が静かに響きわたり、人々を安らかな眠りへと誘う。
2.夕べの池のほとり / No.2 "Sur l'etang, le soir":夜の沼を描いている。8分の6拍子で、終始穏やかな調子を崩さない。はっきりしない旋律が漂うように奏されるが、2拍子系のリズムによって与えられるスウィング感を、体の奥では常に感じていることが大切である。この振幅に自由な変化をもたせていくことで曲に陰影を与えることができるだろう。
3.馬に乗って平原を / No.3 "A cheval dans la prairie":牧場における乗馬をいきいきと描いている。「出発」「泉での休息」「帰路」の3部で構成されている。出発では、次第に興奮を高めながら疾走してゆく馬の様子が描かれている。それは譜面上、視覚的にもとらえられるし、また、演奏の体感としてもそれを感じることができ、楽しめる曲である。中間部では、ダイナミックの変化が激しいので注意。また、持続音や、主要な音の推移によって徐々に緊張、興奮が高められていくが、再び「帰路」の“馬の疾走”に至るまでの、その過程は実に見事だ。
4.春の墓地のひと隅 / No.4 "Coin de cimetiere au printemps":春の墓地が舞台となっている。この曲が着想されたのは1897年であり、この年、セヴラックは、父と、妹のマルトを失った。悲しみは、執拗に繰り返される音や音型によってより深められている。コルトーはこの曲について次のように述べた。「かつて、フランス音楽でこれほどに深く感動的な頁が書かれたことはなかった」、「旋律がこんなにも悲痛に思われるのは、それが人間の苦悩と、絶えず再生する自然の無頓着な清澄さを同時に表現するからこそである」。
5.農家の市の日 / No.5 "Le jour de la foire au mas":挿入的にいれられた変拍子の楽想、ダイナミックのめまぐるしい変化などが、活気に満ちた市の日の描写をより彩り鮮やかなものにしている。「家畜が首につける鈴の音のざわめき」、「ニワトリの鳴き声」の注釈も印象的だ。後半ではアンジェラスの鐘の音が、市のにぎわいを遮るように遠くからきこえてくる。そして最後は自然に溶けていくような美しい響きの中で、静かに曲を閉じる。