1904年に作曲された<仮面>は、当初、<ベルガマスク組曲>の一曲に入れることが考えられていた。ドビュッシーが歌曲にしたヴェルレーヌの詩集<艶めく宴>のなかの<月の光>の一節に、"masques et bergamasques"とある。
ドビュッシーは<艶めく宴>にも描かれている華やかで滑稽であるが、その裏に潜む哀しい運命をテーマとしたイタリア喜劇ーコメディアデッラルテーに深い関心を抱い ていた。
このイタリア喜劇に仮面は欠かせない。ドビュッシーに学んだピアニスト、マルグリ ット・ロンは「仮面と題した音楽、ピアノのためのドラマともいえるでしょう。この作品は、ドビ ュッシーの性質をそのまま表しているように思えます。ドビュッシーは、皮肉でもって本心を隠 そうとする痛ましい熱意にとりつかれているのです。これは、イタリア喜劇ではなく人間存在の悲劇的な表現なのです」と語った。仮面の持つ二面性は、曲を通して交互にあらわれ、6/8、3/4のリズム、中間部との雰囲気のコントラスト、また調性が長調・短調の間を揺れ動くことなどによって表現されている。