バルトークは唯一のオペラ作品《青ひげ公の城》を1911年に作曲し、コンクールに応募するが、演奏不可能として却下される。ブタペスト音楽界への不信をつのらせて、郊外へひきこもるようになったバルトークは、民俗音楽の収集に没頭し、新曲の作曲はほとんど行わなくなった。その後、多くのルーマニア民俗音楽の編曲を数多く手がけるようになったバルトークだが、そこで特に異色な作品となっているのがこの《組曲》(1916年)である。
バルトークが自らのコンサートレパートリーとして久々に手がけた本格的な作品である。ここでは生の民族的素材を用いてはおらず、民族的な語法、リズム、音色などの諸要素を独自の書法によって磨き上げようという新しい試みがみられる。バルトークの後の回想によれば、「それまでの書法を完全に一新し、より見通しの良いスタイルへ、もっと骨と肉によるスタイルへ変化させようと考え」てかかれた作品である。
第1楽章:アレグレット 3部形式の舞曲調の曲。変ロ音が主音となっており、全音音階の使用が目立つ。
第2楽章:スケルツォ 12音列を用いた下降形の冒頭、鋭いリズムと冷たい音色感が印象的である。全体はABACABACAというロンド風の形式によっている。
第3楽章:アレグロ・モルト この楽章の素材は、バルトークが1913年にきいたアルジェリア(当時フランス領)の民俗音楽が影響している。strepitoso、連続するアクセント、素早い跳躍など、高度な技巧を要する。第3拍目を意識し、リズムをくずさないように奏する。
第4楽章:ソステヌート 終曲がテンポの遅い楽章にした点は、《第二弦楽四重奏曲》と似ている点である。8分音符、4分音符、4分音符、8分音符というリズム型は、ハンガリー民謡に由来している。非常に繊細な詩情をたたえた終曲。8分の6拍子の、第4拍目を意識して奏する。