バルトークは、1907年から20年頃にかけて、ハンガリー、ルーマニアなどの民謡素材からピアノ曲を多数作曲しており、この《ソナチネ》もその一つである。
3楽章からなり、技術的には、《ミクロコスモス》1、2巻完了程度の平易なものであるが、リズム感に富み、ステージ効果があがるような作品構成になっている。
バルトークは生涯にわたって、子供のためのピアノ作品に対する情熱をもちつづけていた。《ソナチネ》の他に、《10のやさしいピアノ小品》、《子供のために》、《ルーマニアのクリスマスの歌》、《ルーマニア民俗舞曲》、《ピアノ初心者のために》、《ミクロコスモス》などがピアノ教育作品として挙げられる。
ちなみに、《ソナチネ》は、1931年、バルトーク自身によって、オーケストレーションされており、《トランシルヴァニア舞曲》と命名されている。また、アンドレ・ゲルトレルによる、ヴァイオリンとピアノのための編曲もよく知られている。
第1楽章:バッグパイプ吹き / No.1 "Dudasok" アレグレット
A-B-Aの三部形式。Aの部分は、フニャド地方のアルデレアナ舞曲に基づく。D、E、Fis、Gis、A、H、Cの各音からなるバグパイプの音階が用いられている。これは、Dを基音とするリディア調とミクリディア調が混合した音階で、のちにもバルトークが好んで用いたものである。Bの部分は、ビハル地方の民族舞曲に基づくもので、せまい音域での音型が反復されている。
第2楽章:熊の踊り / No.2 "Medvetanc" モデラート
A音を基音とするドリア調でかかれている。マラマロシュの熊踊りの旋律が、右手、左手交互に登場し、2度くりかえされる。
第3楽章:終曲 / No.3 "Finale" アレグロ・ヴィヴァーチェ
A-Bの二部構成。Aの部分では、マロッシュ・トルダ地方のマルンゼル舞曲に基づく。G音を基音とするリディア調。Bの部分では、トランタール地方のババレウカ舞曲に基づく。ト長調。曲全体を通してD音が支配的になっていることに注意したい。