現在最もよく知られる2台ピアノ作品の1つである《2台ピアノと打楽器のためのソナタ》(1937年)を、バルトーク自身が1940年にオーケストラ版へと編曲したものである。編成は原曲の2台ピアノと奏者2名による打楽器群(ティンパニ3台、木琴、響き線有と無のスネアドラム、合わせ式と吊り下げ式のシンバル、バスドラム、タムタム)に加え、各2本の木管楽器(フルートはピッコロと持ち替え、オーボエはコールアングレと持ち替え、ファゴットはコントラファゴットと持ち替え)、弦五部、チェレスタが入る。基本的にピアノパートと打楽器は原曲のままであり、そこにオーケストラが音響面の迫力と音色の彩を加えている。
原曲は当初、国際現代音楽協会(ISCM)のバーゼル支部創立10周年記念演奏会のために書かれ、1938年にバルトーク夫妻のピアノ演奏で初演された。バルトークにとってはこの1930年代終盤は、代表作となる管弦楽《弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽》(1936年)やピアノ独奏《ミクロコスモス》(1937年)を仕上げた充実期になるとともに、1940年のアメリカ移住を目前にしたヨーロッパにおける最後の栄光期にもなった。この協奏曲版は1943年にシカゴでようやくアメリカでの初演を迎え(ヨーロッパ初演は1942年)、フリッツ・ライナー Fritz Reiner(1888~1963)の指揮とバルトーク夫妻によるピアノで披露されたが、それがバルトークの生涯最後の公的演奏の機会となった。
楽章構成は、序奏とソナタ形式の第1楽章(アッサイ・レント‐アレグロ・モルト)、三部形式の第2楽章(レント・マ・ノン・トロッポ)、ロンド・ソナタ形式の第3楽章(アレグロ・ノン・トロッポ)による、急―緩―急の3楽章。バルトークはこの1930年代終盤に至るまで、ピアノの打楽器的奏法を模索してきたが、この協奏曲および原作のソナタでは、まさにピアノと打楽器の芸術的な融合が実践されている。また、バルトークは作品構成に数学的要素を持ち込むことがしばしばあり、この作品は黄金分割が綿密に使用されていることが判明している。黄金分割とは全体を1としたときに約0.618:約0.382になる点を分割点とする、最も美しいとされる比のことであるが、バルトークはこの作品の全体構成、序奏の構成、細部の音型に至るまで、この比を採用している。