バルトークは、初期の作曲において、民謡素材に基づくピアノ曲を多く作曲するが、1923年からの3年間、創作活動を中断した。この沈黙を経て、1926年、バルトークは、初期の作品とは全く異なる作風をもって、自ら「後期」への意思を示したのである。
1923年、農民音楽を素材として扱ったものとして、最後の大作となったのが、オーケストラ作品《舞踏組曲》である。
この曲は、ブタペストの3区合併50周年記念祭のための音楽として、政府からの依頼をうけて、作曲したものである。バルトークと同時に、コダーイ、ドホナーニにも作曲が依頼され、《ハンガリー詩篇》、《祝典序曲》がそれぞれうみだされた。
このオーケストラ作品《舞踏組曲》の初演は好評を博し、その人気をうけてピアノ版が1925年に作曲された。しかしながら、このピアノ版はほとんど演奏されることがなく、初演は、1945年、ハンガリーのピアニスト、ジェルジ・シャーンドルによってなされた。
曲は性格の異なる6つの舞曲的楽章からなるが、その間に、一つの同じ主題が繰り返し現れ(リトルネッロ主題=以下R)、それぞれの楽章を巧みに結合させている。全体はI-R-II-R-III-IV-R-V-VIという構造になっており、各楽章の主題、リトルネッロ主題の素材はそれぞれ民族的旋律の模倣による。
第1曲:モデラート
アラブ風の性格をもち、リズムは、東ヨーロッパの民族音楽のものである。
拍節感を意識して奏する。テンポを変化させるところと、そうでないところを明確に。
第2曲:アレグロ モルト
ハンガリー的な性格を帯びている。
リズムのまとまりがどのように組み合わされているのかを把握して演奏することが大切。
第3曲:アレグロ ヴィヴァーチェ
ハンガリーのバグパイプ風の音楽と、ルーマニア的な農民のヴァイオリンの要素が交互に現れる。軽快で活気あふれる曲。左右の手において、また各パートにおいて、独立したタッチでのテクニックが要求される。
第4曲:モルト トランクイッロ
前曲と対照的な静かな曲。アラブ風の性格をもつ。ハーモニーをつかさどる個所と、ユニゾンの箇所との対比が印象的。
第5曲:コモド
バルトークは、ある手紙の中で、「極めて原始的なもので、ただ原始的農民音楽としか既定しようがないもの」と述べている。ルーマニア風の曲。
第6曲フィナーレ:アレグロ
(第4舞曲を除き)これまでにあらわれた素材が再帰し、リトルネッロと織り合わされて、圧倒的なクライマックスを形成する。楽譜通りには演奏不可能の箇所も多い難曲。記されたすべての音を鳴らそうとするのではなく、どの音が意味をもっているのかをよく考えて効果的に演奏する必要がある。