モスクワ音楽院のピアノ教授を辞した直後の、極めて多作な1903年に書かれた。スクリャービン独自のスタイルが確立されてゆく、中期の開始を告げるソナタであり、切れ目なく演奏される2つの楽章からなる。
第1楽章(Andante)二部形式
冒頭の旋律を、スクリャービンは「理想の創造力への努力」、後続の短いモティーフを「努力の後の倦怠や疲労」と呼んだという。開始部の天上的な静けさは、このソナタにスクリャービンが後から付した詩によれば、彼方の星が放つ、美しく優しい輝きである。この主題が、そうした煌めきを思わせる装飾を加えられて繰り返される。第2楽章の動機にもとづく推移的なフレーズが、次の楽章への橋渡しをする。
第2楽章(Prestissimo volando)ソナタ形式
第1楽章の静けさとは対照的に、躍動感に満ち溢れる。冒頭の第1主題を特徴づける跳躍、軽快な伴奏やリズムは、中期以降のスクリャービンに典型的な「飛翔」の表現であり、楽章全体を性格づける。展開部では第1楽章の主題が歌われるが、この主題は終結部においてfffで、熱烈な伴奏で奏でられる。「飛翔」で辿り着くのは、もはや彼方の星でなく「燃ゆる太陽」であり、壮麗なクライマックスが築かれる。