この曲を生徒に与える先生方や、自発的に弾こうとしていらっしゃる学習者の方は、ハチャトリアンの音楽をある程度理解していると仮定してお話を進めます。この曲はハチャトリアンのピアノ曲の中でも知名度の低い曲で、マニアックな部類に分類されることは確実です。しかしながら、ハチャトリアンの言語を理解できている方であれば、この曲に取り憑かれてしまうことは決して不思議ではありません。万が一、この曲が初めてのハチャトリアンの音楽に触れる機会だとするのであれば、とにかく彼の作品を沢山聴かれることをまずはじめにお勧めします。特に聴かなければならないのはオーケストラの作品です。この曲は、オーケストラの要素が強く、ハチャトリアン独自のスペクタクルな要素が多く含まれており、それをピアノ1台で再現すること=オーケストラのように様々な楽器のカラーも必要になります。
反面、歌心が必要な部分も多くあり、即興的な要素も必要になります。曲中で使われる和音には、長7度などの不協音を含む和音も多くあります。ミステリアスな要素や、魑魅魍魎的な別世界の要素も含まれます。奏者はまず、オーケストラに例えた時に、どのような楽器が奏でているのか、どのくらいの多くの、あるいは少ない楽器編成であるか、等を想像してください。例えば、49小節目は絶大なドラマで、聴衆をどんどん圧迫しなければなりません。この部分はtuttiであると考えます。また、78小節目からの歌の部分や、107小節目などはソロの楽器1本か、または小編成の楽器であると考えます。
もう1つ、大変重要な注意点で、リズムがあります。曲は、歌の部分などでrubatoなどの指示が特に書かれている部分以外では、基本的に流れを止めずに前へ前へ進みます。その際にリズムは厳格に守ってください。例えば冒頭、彼は、複付点のリズムを32分音符とともに書いています。何故、付点8分+16分で書かなかったのか、等を鑑みます。ちなみに、同じような素材のリズムでも、113-120小節間彼は複付点を外し、付点+16分のみリズムにしています。複付点がどれほど緊張感を高め、付点がどれほど感情的に緩やかであるか等を考えます。そしてリズムを厳格に守ります。テンポに関する細かな指示はきちんと書かれていますので、その他の部分に関してはストレートに進んでください。
形式は、ABA形式になります。A(1-57)B(58-120)A(121-216)と分けます。Aセクションは淡々と進み、Bセクションは多くの即興性やrubatoが必要になってきます。Bセクションは自由に演奏してください。この形式は彼のトッカータの形式と一致します。このトッカータもBセクションは歌であり、即興的です。ご参考まで。