作品概要
出版年 1954年
初出版社 Max Eschig
楽器構成 ピアノソロ
総演奏時間 約7分
前作《七枝の燭台》(Op. 315)に続き、ピアノ曲において重要な宗教的作品が並ぶこととなった。1953年12月20日から1954年1月5日の間にパリにて作曲され、ナディア・ブーランジェに献呈された。ミヨーとブーランジェは特に第二次大戦中にアメリカ西海岸で交友を深め、ミヨーのヴィオラソナタ第2番(Op. 244)を1944年にジェルマン・プレヴォーが初演した際にブーランジェがピアノパートを受け持つなどの縁があった。本作の初演は、1954年12月、デトロイト美術館にて、ザデル・スコロフスキー(Zadel Skolovsky)によりおこなわれた。カナダ出身のスコロフスキーは現代曲を得意とする技巧派の新進で、ミヨーのピアノ協奏曲第4番(Op 295)の委嘱・初演者でもあった。
出版譜に直接の記載はないが、ミヨーと懇意であったポール・コレールによれば、本作は詩篇第18番の一節にある全能者への称揚を表現したものであるという。4分の4拍子、四分音符 = 84の悠然たる速度が一貫する。開始部と終結部はホ長調(調号なし)であるが調性は一定しない。幅広い音域に及ぶ大がかりな和音奏、32分音符の急速なスケールとパッセージ、重音奏やオクターヴ奏が頻出する。円熟したヴィルトゥオジティが前面に出ており、コンチェルトのソロパートを思わせる見せ場が多い。技巧からくる壮麗さはもとより、超越者への尽きせぬ讃仰、深遠で思索的な音響の創出が特に秀逸で、聴く者に鮮烈な印象を与える名作である。