柴田 南雄 :ピアノのための変奏曲 Op.1
Shibata, Minao:Variations for piano Op.1
総説 : 仲辻 真帆 (1115文字)
柴田南雄の「Op. 1」を冠する作品が《ピアノのための変奏曲》である。 1939年に東京大学を卒業した柴田は、同年12月から諸井三郎に師事して対位法や作曲法を学んでいた。そして1941年、いわば「卒業作品」の一つとして主題と15の変奏を書き、1943年に終曲部分を加筆してこの作品を完成させた。《ピアノのための変奏曲》は、1943年6月13日、諸井三郎宅で開催された試演会において、師であった諸井の手で初演された。 この曲は、習作もしくは最初期の作品と思えないほど、「変奏曲」の魅力を引き出すことに成功している。「七変化」ならぬ「十五変化」によって感興をそそり立たせる作品である。 主題部分は8小節。a mollの自然短音階を上っては下り、下っては上ることを繰り返す。曲の冒頭は静かに波のように奏でられる。単音だった主題は、第1変奏でオクターヴとなって響きを増幅させる。第1変奏では、まず低弦へ音域が広がる。同じくオクターヴを中心とする第2変奏が続くものの、ここでは第3音が加わり、スタッカートが付き、リズムに変化がみられる。第3変奏において、いままで活躍していた2分音符が突如として姿をくらます。臨時記号も格段に増え、来るべき大きな展開を予感させる。第4変奏では、付点音符の跳躍がドラマティックに響く。第5変奏は、高音部による弱音のトレモロに次いで、左手が32分音符で豪快な動きをみせる。日本的でもありフランス的でもある第6変奏、雫がこぼれおち、波紋がひろがる。第7変奏では、3声によるカノンで薄らぎつつあった主題の原型を思い出させる。変奏部分も約半分を越えた。第8変奏以降は、各変奏ごとに息つく暇もなく次々と連結してゆくことになる。3連符とスタッカートが軽やかに音を刻む第8変奏を終えるやいなや、オクターヴ間を行き来する付点音符と6連符、7連符、12連符、13連符であっという間に第9変奏を駆け抜け、第10変奏へ。ここで調性がおぼろげになってゆき、次第にa mollの輪郭は曖昧となる。ゆれる調性のなか、第11変奏の途中でやはりa mollがはっきりと現れる。グリッサンドで彩り豊かな音を堪能できるのが第12変奏。続く第13変奏では複前打音が際立つ。心地よい装飾音が、あるいは虫の鳴き声のように、鳥のさえずりのように響く。前進したかと思えば立ち止まり、止まったかと思えばまた前進する第14変奏。ぶつかりあう半音に、思わず惹きつけられる。第15変奏は、気ままなようでいて主張は明快。フゲッタが現れ、終に圧倒的なフィナーレへと至る。 主題部分でpによって奏でられたaの一音は、最終的にオルガンが似合うfffの和音に化ける。
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