1867年、《ピアノ協奏曲イ短調 作品16》で一躍有名になったグリーグは、この年から1901年にかけてこの作品集を書き上げた。生涯にわたって作曲されているため、グリーグの作風、ピアニズム、その変遷すべてがその中にあらわれており、グリーグの作品の中でも中心的な存在にある。
いずれも1分~6分程度のかるめの小品であり、ステージ用というよりは、主にサロンや家庭で広く親しまれていた。いずれの曲も、標題がつけられており、それぞれの曲に対して、一つの感情、気分、情景が表現されている。
1867年、第1集を発表したが、その後ピアノ、作曲、指揮など多忙だったこともあり、第2集が発表されたのは、その16年後であった。第2集から第10集は間隔をおきながら続けて作曲された。全10巻で、計66曲の作品がおさめられている。
グリーグ : 抒情小品集 第8集 / Lyriske smastykker No.8 op.65
第7集が作曲された翌年1896年に出版された。若き日々を惜しむような曲調のものが目立つ。
1.青年時代より / op.65-1 "Fra ungdomsdagene":懐古的な作品である。中間のモルト・ピウ・ヴィーヴォでは、躍動感のあるリズムにのせて、民族的旋律が活き活きと歌われるが、これが、前後の絶望や憂愁の色をよりいっそう強めている。オクターブがたたみかけるように連なっているパッセージでは、非常に深みのある音色が求められる。この曲の演奏にあたっては、なによりも豊かな人生経験が表現の肥やしになるだろう。
2.農民の歌 / op.65-2 "Bondens sang":自然で飾り気のない旋律は、気高さと美しさも同時に兼ね備えている。2分程度の小品。透明感のある和声の響きに支えられて、旋律が優しく、穏やかに歌われる。一つのフレーズが長いので、息がとぎれないようにし、フレーズとフレーズの間では自然な呼吸を心がけたい。
3.メランコリー / op.65-3 "Tungsind":タイトル通り、落ち込んだ気分が前面に押し出されたような暗い曲である。伴奏は、下降するように音を増やし、曲の深みを増している。fの部分で駆け上がる16分音符(右手)は、激しさをもちながらも、それが荒々しいものにならないように注意し、歌いあげる。
4.サロン / op.65-4 "Salon":明瞭で輝くような16分音符と、微妙に移ろうハーモニーが、この曲の都会的な雰囲気をより強めている。主要な旋律音は、豊かな響きで浮き立たせるように奏する。全体的に、非常に軽やかに、そして優雅さをもって。
5.バラード調 / op.65-5 "I balladetone":悲しげに。全体的にpで穏やかに奏される。旋律は、単純なリズム、少ない音で構成されているが、その民俗風の音の動きが美しく、じんわりと心に染みわたってくる。息が長く、厚みのあるレガートが求められる点で、難しさがある。フレーズのまとまりを意識して、一つ一つの音をたっぷり響かせていくことが大切であろう。また、旋律と和音のバランスにも注意してみるとよいかもしれない。
6.トロールハウゲンの婚礼の日 / op.65-6 "Byllupsdag pa Troldhaugen":曲集中最も有名な曲の一つ。もともと、グリーグが、結婚記念日に妻ニーナに贈った曲である。「行進曲のテンポで、やや速めに」始まり、明るく活気に満ちたリズムをもって、曲は盛り上がりをみせる。fffで華やかなクライマックスを形成した後、ポコ・トランクィロへ。ここでは、右手と左手で同じ旋律を模倣し合い、まるで二人がお互いの愛情を確かめあっているようだ。再び、テンポ・プリモとなり、最初の音楽を繰り返す。最後の音は、2人を祝福するように、fffzで。直前のpppとの対比を十分に生かしたい。