1867年、《ピアノ協奏曲イ短調 作品16》で一躍有名になったグリーグは、この年から1901年にかけてこの作品集を書き上げた。生涯にわたって作曲されているため、グリーグの作風、ピアニズム、その変遷すべてがその中にあらわれており、グリーグの作品の中でも中心的な存在にある。
いずれも1分~6分程度のかるめの小品であり、ステージ用というよりは、主にサロンや家庭で広く親しまれていた。いずれの曲も、標題がつけられており、それぞれの曲に対して、一つの感情、気分、情景が表現されている。
1867年、第1集を発表したが、その後ピアノ、作曲、指揮など多忙だったこともあり、第2集が発表されたのは、その16年後であった。第2集から第10集は間隔をおきながら続けて作曲された。全10巻で、計66曲の作品がおさめられている。
グリーグ : 抒情小品集 第7集 / Lyriske smastykker No.7 op.62
第6集の2年後、1895年に出版された。最盛期のものと比較すれば見劣りがする、というような評価がされることもある。しかしながら、いくつかの作品においては、グリーグらしい洗練された自然美が描き出されているし、第6集ではあまりみられなかった明るさも取り戻している。繊細な表現をもち、演奏にも高度なレベルが要求されるものが多い。
1. 風の精 / op.62-1 "Sylphe":4分の3拍子ワルツ風の曲。小節線を越えるフレージングや、細かい休符を伴った弾むようなリズム音形、テンポ、拍子の変化は、自由できまぐれな風の精を想わせる。音程が次々に変化していくので、それぞれの箇所において、音色や間合いを変化させていくと面白い。
2.感謝 / op.62-2 "Tak":旋律は、抒情小曲集の最初のころにみられたような素朴さをもっており、曲に暖かみと洗練された美しさを与えている。それぞれの声部で、音が上行、下降の動きをみせていることに注意し、打鍵後に響いている音に対しても絶えず神経を配りつづけるようにしたい。特に、印象的に響きが積み重なっていく中間部やコーダでは、息の長い集中力が必要である。全体的にフレーズの長さもさまざまなので、それぞれの箇所において、エネルギーの使い方や表現のつけ方に工夫する必要があるだろう。
3.フランス風のセレナード / op.62-3 "Fransk Serenade":グリーグの友人、ゲルハルト・シェルデルップの小さな思い出を描写したものだといわれている。サロン風の小品。優雅で軽やかな伴奏にのせて、右手でコロコロと、どこか媚びる様なリズムが愛らしい。
4.小川 / op.62-4 "Baekken":光をあびてきらめきながら、勢いを絶やさずにながれていく小川を描写したような、印象派的な作品。聞いた印象は地味であるが、技巧的には最も難しい部類に入り、粒をそろえて軽やかに奏するためには、細やかな鍛練が必要である。
5.夢想 / op.62-5 "Drommesyn":曲はpからppのダイナミックレンジで構成されており、左手の3連音符の上を、右手の旋律がただようように歌われていく。ホ音が何度もくりかえされる部分では、中の和声が穏やかに変化し、印象的である。全体的に、はっきりした表現は避け、和声に沿った繊細な色の移り変わりを楽しむようにしたい。
6.家路 / op.62-6 "Hjemad":傑作のひとつであり、民俗音楽の世界を活き活きと描き出している。民俗的な雰囲気を出すためには、リズムや、音の長さを正確にとることが最も重要である。中間部では、ひきのばされた主題の動機が、穏やかな雰囲気をうみだしている。中間部の後半でもまた、高音部で旋律が歌われ、光り澄み切った音色が魅力になっている。