リスト :「おお, お前, 優しい夕星よ」(ワーグナーの「タンホイザー」から) S.444 R.277

Liszt, Franz:O du mein holder Abendstern ("Tannhäuser" Wagner) S.444 R.277

作品概要

作曲年:1848年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:リダクション/アレンジメント
総演奏時間:7分00秒
原曲・関連曲: ワーグナー第3幕 ヴォルフラムのアリア「夕星の歌」

解説 (1)

執筆者 : 上山 典子 (1286文字)

更新日:2015年3月18日
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ワーグナー=リストの《優しい夕星よ》は、≪タンホイザー≫のなかでももっとも人気のある場面の一つ、第 3 幕第 2 場で竪琴を手に夕星に願いをかけるヴォルフラムの悲しくも美しいバリトン・アリアに基づく。それはリストが手がけた最初のワーグナー編曲、《タンホイザー序曲》とほぼ同時期の 1849 年に完成した。リストはその一年前からワイマールの宮廷楽長を務めており、この編曲はその雇い主にあたるザクセン=ワイマール=アイゼナハ大公の世子、カール・アレクサンダー(1818-1901、在位 1853-1901)に献呈された。《タンホイザー序曲》が極めて演奏至難の編曲として知られるのに対し、《優しい夕星よ》についてリストは、「第 2 ランクの奏者が容易に演奏できる」レベル、とワーグナーに伝えている(1849 年 2 月 26 日付手紙)。

リストは原曲では 4 小節の前奏を 10 小節に拡大し、後奏にさらに 12 小節を追加したが、そのほかの部分はアリアの旋律線をほぼ変更せずに追っていて、楽譜には歌詞が記入されている。それはすなわちリストの編曲が、歌詞の配置された原曲の旋律線と一致していることを意味するもので、事実、《優しい夕星》にはリストによる独自の小節追加や装飾による拡大がほとんど存在しない。

こうしたなか、この編曲と原曲のもっとも決定的な違いは調の選択にある。原曲ではレチタティーヴォ部分が変ロ長調、アリアがト長調だが、リストは前者をロ長調、後者を変イ長調に移調し、またアリア部分にはカンタービレで平易な器楽曲を意味する「ロマンツェ Romanze」という親しみやすい名称を付与した。

原曲のレチタティーヴォとアリアの調関係、変ロ-ト(短 3 度)とリストのロ-変イ(増2 度)は音程的には同度だが、なぜリストはワーグナーのそのほかの編曲では行っていないこうした移調を敢行したのだろうか。5 つのシャープを要するロ長調への移調は、必ずしも「第 2 ランクの演奏者」にとって演奏が容易になるように、という配慮からではないだろう。短 3 度関係の転調ではなく、シャープ調(ロ長調)からフラット調(変イ長調)への劇的な増 2 度の遠隔転換を図ったのだろうか。それとも、ロ長調と変イ長調というこの 2つの調が持つ抒情的で甘美な響きを求めたのだろうか。理由はわかっていない。

原曲の後半部はことばが途絶え、アリアと同じ旋律をチェロが奏でる。しかしリストはそこでチェロの音域ではなく、ソプラノ声部を使用している。ピアノの楽器では声(バリトン)とチェロの音質の違いを出すことが出来ないため、音域を変えることで色合いの変化を実現させようとしたのだろう。

初版は《おお、おまえ、優しい夕星よ/R. ワーグナーのタンホイザーより/レシタティヴとロマンツェ》のタイトルの下、1849年にライプツィヒのキストナー社から出版され、その後同じ出版社から新しい彫版で2度出された。このほかにパリ、ロンドン、モスクワの各地でも出版されていることから、この編曲はヨーロッパ各地で人気を博したものと推測される。

執筆者: 上山 典子
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その他特記事項
ワーグナーの歌劇「タンホイザー」第3幕、ヴォルフラムの「夕星の歌」の編曲。