1851年に作曲された作品。初版では、この曲には、「Wild Jagd/死霊の群れ」の名前が与えられていたが、このタイトルは、現在は、超絶技巧第8曲につけられ、「狩」の邦訳で知られている。
ちなみに、“Wild Jagd”には、「(深夜騎馬の亡者群を率いて空中を駆ける)冥界の王」という意味があり、一言に「狩」といっても荒々しい類のものであることは間違いない。
悪魔的要素の強いスケルツォと、不気味な雰囲気をもちあわせながらも勇ましいマーチ、それらの対比は効果的で、かつ印象深い。
この曲の大きな特徴は、少ない動機によって曲全体が支配、統一されていることである。これらの動機が、音楽的な文脈に従って、少しずつ変形しながら曲が進んでいくが、この手法は、のちの大作《ソナタロ短調》につながるものだ。
《スケルツォとマーチ》は、難易度が高く、この曲を献呈されたピアニストのテオドール・クラックや、ヴィルティオーゾとして知られるカール・タウジッヒでさえも、この曲を弾きこなすことはできなかった。演奏を成功させることができたのは、唯一、リストの弟子ハンス・フォン・ビューローのみであったと言われている。
今日でも、とりあげて演奏されることはあまり多くなく、今も尚“隠れた名曲”としての扱いをうけているといわざるを得ない。しかしながら、ここまで注目されるようになってきた背景には、ライブ録音でこの曲をとりあげた巨匠ホロヴィッツの影響が大きいといえるだろう。ホロヴィッツは、この曲の後半を大幅に書きかえて演奏している。原曲のものと比べると、リストが意図したであろうストーリー性が損なわれているような印象をうけるが、演奏効果は原曲のものよりも高く、結果的に聴衆の多くの賛同を得ている。
この曲の演奏にあたっては、いわゆる“暴れ狂う悪魔”のような部分と、“それを統制する力”の部分とを効果的に弾き分けること、また、演奏箇所によって噪音と楽音をうまく使い分けることなどに留意したい。