シェーンベルクの残したピアノ曲は比較的少ないながらも、常に彼の創作段階における重要な節目に作曲されている。この《3つのピアノ曲》も、彼が後期ロマン主義のスタイルから、いわゆる自由な無調へと移行する時期に書かれた。1909年には、このピアノ曲の他に、歌曲集《架空庭園の書》作品15や《5つの管弦楽曲》作品16、モノドラマ《期待》といった作品を完成させた。この時期にシェーンベルクが抱いていた理想は、表現の自由さや、形式・論理に束縛されない作曲だった。具体的に言えば、次第に動機労作のための主題が放棄され、絶え間ない楽想の変化やコントラストがより顕著になっていくのである。
形式的な面から見ると、第1曲と第2曲は比較的古典的である。特に、第2曲は3曲中で最も明確な3部形式であり、その提示部と再現部は低音のオスティナートによって特徴づけられている。その上に現れる2つの主題要素は、発展的に変奏され、曲全体の安定性を保っている。
同様に第1曲においても、冒頭主題の中の動機やその音程が至るところに張り巡らされているという点で、古典的な作曲法の影響を色濃く残している。しかしながら、フラジョレット奏法や、時折挿入される32分音符の自由なパッセージ、リズムの不規則な変化・解決を必要としない和音の響きは、伝統的要素からの確かな逸脱であるといえる。シェーンベルクは当時、第1曲について、第2曲よりも自身の理想に近いものだと考えていたようだが、以上のような点からもその理由がうかがえよう。
この2曲から数ヶ月後に作曲された第3曲では、もはや主題が発展・変奏されることは無く、和音は機能和声からの解放という点において完全な自由さを持って表出されている。また、急激な楽想・ダイナミクスの変化などの特徴がより顕著に現れており、時を同じくして作曲が進められてきた《5つの管弦楽曲》との近似性を指摘できる。このように《3つのピアノ曲》は、シェーンベルクがこの時期に抱いた理想の実現に向け、自身の作曲方法を短期間で変容させていった姿を捉えた作品だと言えるだろう。