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信時 潔 : 東北民謡集

Nobutoki, Kioyoshi : TOUHOKU MINYOUSHU

作品概要

楽曲ID:4275
作曲年:1941年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (2)

成立背景 : 仲辻 真帆 (924 文字)

更新日:2014年6月30日
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昭和16(1941)年、信時潔は「東北民謡試聴団」の一員として東北各地を訪れている。この「試聴団」には、団長であった柳田國男の他に、折口信夫、田辺尚雄、土岐善麿、中山晋平、藤井清水、町田嘉章など約20名の団員が加わった。NHK『日本民謡大観』制作スタッフ編『NHK民謡調査の記録1939‐1994』(日本放送協会放送事業データ情報部、1995年)によると、この民謡調査・採譜の試みは、日本放送協会仙台中央放送局が企画したもので、民謡研究で著名な武田忠一郎も放送局を代表して随行している。「東北民謡試聴団」団員であった柳田や折口が民間伝承などに関する研究を学問として展開させ、藤井や中山が自らの作曲・編曲に民謡を多く取り入れたのは、いずれも大正から昭和初期頃のことであった。

信時潔は、昭和16年にピアノ曲《東北民謡集》(全20曲)を、同21年に合唱曲《東北民謡集》(全33曲)を編んでいる。それらの自筆譜には随所に「武田忠一郎採譜」の記載が見受けられる。「東北民謡試聴団」が採譜した民謡は、ラジオでの放送や『日本民謡大観 東北篇』の出版(日本放送出版会、1952年)という形で世に出されていった。「東北民謡試聴団」の調査旅行、およびその際に聴取された民謡については、田辺尚雄の著書『続田辺尚雄自叙伝(大正•昭和篇)』(吉川英史編、邦楽社、1982年)にも記載がある。

なお、信時による《東北民謡集》のピアノ楽譜は出版されていない。東北民謡に関しては、『信時潔合唱曲集』(春秋社、1950年)に9曲、『信時潔合唱曲集』(音楽之友社、1951年)に29曲がそれぞれ収録されている。自筆譜においても、東北民謡に関連する断片は多く散見され、声楽用の楽譜は確認できるものの、ピアノ用の楽譜は見当たらない。ただし「ピヤノ小曲 東北民謡集」と記された、作曲者の妻・ミイによる浄書譜が残されており、そこには信時潔自身が記入したとみられる訂正が多数ある。浄書譜は、東京藝術大学附属図書館に所蔵されている。

【主要参考資料】

・『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』CDおよび解説書(東京:日本伝統文化振興財団、ビクター、2008年)。

・信時潔自筆譜(東京藝術大学附属図書館所蔵)

執筆者: 仲辻 真帆

総説 : 仲辻 真帆 (992 文字)

更新日:2015年1月20日
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民謡の調査・採譜が進められていた昭和16(1941)年、信時潔はピアノ曲《東北民謡集》を編んだ。曲集は20曲から成り、各民謡の採譜地および旋律採譜者は以下の通りである。なお、20曲中16曲の採譜者として名が挙がっている武田忠一郎は、我が国の民謡研究においてよく知られており、このとき日本放送協会仙台中央放送局で民謡調査に従事していた。

1.〈牛方節〉  岩手県九戸地方、武田忠一郎採譜

2.〈秀子節〉 秋田県仙北郡地方、茂林孝採譜

3.〈ドドサイ節〉岩手県雫石地方、武田忠一郎採譜

4.〈鍋子長嶺〉 岩手県南部地方、武田忠一郎採譜

5.〈南部松坂節〉 岩手県盛岡地方、武田忠一郎採譜

6.〈山唄〉 (東北地方)、武田忠一郎採譜

7.〈厨川節〉 岩手県厨川地方、武田忠一郎採譜

8.〈米搗き唄〉 岩手県稗貫郡亀ヶ森村、武田忠一郎採譜

9.〈三春甚句〉 福島県田村郡三春町、武田忠一郎採譜

10.〈松前追分〉 北海道松前地方、四竃訥堂採譜

11.〈そんでこや〉 三陸地方、武田忠一郎採譜

12.〈田植踊〉 岩手県遠野盆地、武田忠一郎採譜

13.〈田植踊〉 岩手県遠野盆地、武田忠一郎採譜

14.〈刈上げ唄〉 (東北地方)、武田忠一郎採譜

15.〈牛追唄〉 岩手県南部地方  松平頼則採譜

16.〈澤内甚句〉 岩手県和賀地方、武田忠一郎採譜

17.〈もとすり唄〉 岩手県南部地方、武田忠一郎採譜

18.〈いとこどの〉 岩手県胆沢地方、武田忠一郎採譜

19.〈さんさ時雨〉 宮城県仙台地方、採譜者不明

20.〈おばこぶし〉 秋田地方、武田忠一郎採譜

信時は民謡の重要性を充分に認識しており、ピアノ曲のみならず合唱曲としても《東北民謡集》を発表している。ただし、彼は民謡(民族性)の評価に関して、「充分意義のあることであるが、一面時代に逆う生活感情への停滞偏執の危険を蔵しており、民族主義の行き過ぎは往々音楽の普遍性をさまたげ、その国際性を弱めることもあるのを忘れてはならない。」と明記している(『心』第18巻3号、 東京:生成会、1965年)。

ピアノ曲《東北民謡集》のうち6曲が、昭和17(1942)年にエタ・ハーリヒ=シュナイダーのチェンバロ演奏でラジオ放送された。また同年、ポリドールから発売されたSPレコード『現代日本の音楽―チエムバロ邦人作品集』には、シュナイダーのチェンバロ演奏による12曲の《東北民謡集》が収録されている。

執筆者: 仲辻 真帆
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