サン=サーンスは当時61歳であったが、多くの演奏旅行をしており、名ピアニストとしての地位も保ち続けていた。ピアニストデビューから50年目にあたる1896年、それを祝うために、プレイエル音楽堂で音楽会が行われた。このためにかかれたのが、《ピアノ協奏曲第5番》である。
この曲はエジプトに滞在した際に作曲されており、とりわけ第二楽章には、異国的な情緒が強くおしだされている。初演当時、その大胆な和声づかいは人々を驚かせたようである。また楽曲構成において、以前の作品と比べて形式的に自由になっているところも特徴であろう。
ピアノのヴィルティオーゾらしい華やかな見せ所も充分に用意されており、全5曲あるピアノ協奏曲の中でも人気の高い一曲である。演奏所要時間約30分
第一楽章:アレグロ・アニマート ヘ長調 4分の3拍子
清清しい朝を思わせるような即興的な8小節の導入につづき、ピアノが第一主題をコラール風に奏でる。第二主題はニ短調で優雅なワルツ風。展開部では、経過動機を用いながら主題が展開をみせる。後半では、ピアノにより第二主題が奏でられ、見せ場の一つになっている。第二主題はコーダで再びピアノによって歌われ、最後は優しく曲をしめくくる。
第二楽章:アンダンテ 二短調 4分の3拍子
この協奏曲が「エジプト風」と呼ばれる由来はこの楽章にある。
冒頭、弦楽によってシンコペーションのリズムがうちだされる。それにのせてピアノがエジプト風の音形を奏でる。つづき、ピアノで歌われるラプソディックな旋律がこの曲の第一主題で、悩ましげな夜の色気を感じさせる。中間部は、アレグレット・トランクイロ・クアジ・アンダンティーノ、ト長調。安らぎを感じさせるような旋律が美しく奏でられる。それらが徐々に発展をみせていくが、その中でみられるエキゾチックな効果を狙った特異な音の組み合わせやリズムには、心をひきつけられるものがある。再び冒頭の部分リズムが再現されたのち、ささやくようなピアノの上行音形によって静かに曲をとじる。
第三楽章:モルト・アレグロ ヘ長調 4分の2拍子
ティンパニを伴った導入に続き、ピアノによる軽快な第一主題。はじけ、光るような音響が印象的である。弦楽によるト長調の第二主題。ラプソディックな部分とリズミカルな部分が絶妙に入り混じりながら華麗な展開をみせる。ピアノによる強烈なタッチやアクセントが溌剌とした曲の性格をより明確にしている。野性的なエネルギーに満ち、大自然の中をかけていくような爽快感を感じられるフィナーレである。