バルセロナで1911年から1914年にかけて作曲された《内なる印象》は、モンポウ初期の代表作品であり、最初の出版作品でもある。第1番〈哀歌〉(第1曲~第4曲の連作)、第2番〈悲しい鳥〉、第3番〈小舟〉、第4番〈ゆりかご〉、第5番〈秘密〉、第6番〈ジプシー〉の全9曲から成る曲集である。モンポウ自身が述べるように、いずれの曲も単純な様式を用いて内的な印象を表現している。単純でありながらも、そこには無垢な繊細さがあり、ひめやかで美しい音世界がある。非常に魅力的な曲集である。全曲を通した演奏標準時間は約19分。
第1番 1~4.哀歌/No.1~4 "Planys I~IV" 1911年の作。
第1曲:イ短調、拍子記号、終止線はかかれていない。レント・カンタービレ・エスプレッシーヴォ。二分音符の踏みしめるような歩みの上で、悲しみにみちた旋律がうたわれていく。旋律はほとんどが4分音符でかかれているが、外観は単純であるが、そこに秘められているものは深い。
第2曲:エオリア旋法、4分の3拍子、ラルゲット。5小節を一つの単位として、同じリズム音型によって構成されている。弱拍で打たれる低音は、底が見えないほど深く広がる沼に落とされ、波紋が広がるように響く。
第3曲:変ロ音からはじまるエオリア旋法、8分の6拍子、グラチオーソ。悲しみの中にも、第2曲とは対照的な軽やかさをもつ1曲。スカートをひるがえしながら踊る少女のように、儚げな美しさがある。
第4曲:嬰ハ音からはじまるエオリア旋法、4分の4拍子、アジタート。急激に寄せてはひく波のようなクレシェンド・ディミヌエンド、半音階的な音の動き、シンコペーションなどが効果的に用いられている。不安をかきみだすような激しさをもった曲。
第2番 5.悲しい鳥/No.5 "Pajaro triste"1:1914年の作。嬰ハ音からのエオリア旋法。4分の3拍子、ラルゴ。モンポウの父が飼っていた鳥、ベニヒワの鳴き声が動機として表現されている。全体的にpからppで非常に静かに、繊細に奏される。和音が重くならないように。
第3番 6.小舟/No.6 "La barca":変イ長調、4分の3拍子、ラルゴ。非常に静かで内的な響きをもった曲。不協和と協和を行き来する和声の動きが、ひいてはかえす波のように柔らかく響く。その中でゆれる小舟のように、クレッシェンド・ディミヌエンドの効果をうまくいかした表現を心がけるとよいだろう。
第4番 7.ゆりかご(子守歌)/No.7 "Cuna":1914年の作。イ長調、8分の12拍子。同音で繰り返される低音は、子供をねかしつける母親のような愛情をもって、あたたたかな音色で鳴らされる。
旋律のもりあがりにあわせて、揺れの速度を工夫するとよいだろう。
第5番 8.秘めごと/No.8 "Secreto":1912年の作。嬰ハ長調(またはエオリア旋法)、4分の2拍子、レント。モンポウらしい繊細さに満ちた、非常に内省的な一曲。付点のリズムがひたすら繰り返される伴奏に、哀愁を帯びた旋律が静かに歌われていく。同じ旋律が3回繰り返されるので、それぞれ表現に変化をつけて奏する。音のない白黒映画をぼんやりと眺めているような感覚にとらわれる。
第6番 9.ジプシー/No.9 "Gitano":調号無し、4分の3拍子、アンダンテ。モンポウの恩師であるペドロ・セーラに献呈。1914年の作。モンポウは、車をジプシーと接触させてしまったことがあったが、その時のジプシーの優しさを思い出に、作曲したもの。旋律は優しさに満ち、心地よい風のように歌われていく。一小節を一拍で大きくとらえるようにすると、曲に推進力が与えられる。魅力的な一曲である。