《ピアノ協奏曲 第4番》は、サン=サーンスのピアノ作品において、最も完成された曲の一つとして、高く評価されている。1875年に作曲され、同年、パリにおいて、作曲者自身によるピアノで初演が行われた。
この時期は、《サムソンとダリラ(1869‐1872)》《死の舞踏(1874)》、ベートーベンの主題にもとづく《二台のための変奏曲 作品35(1874)》など、サン=サーンスが数々の傑作を生み出した時期でもあった。
《ピアノ協奏曲 第4番》は、循環主題を用いた構成が特徴になっており、全曲を通して用いられる旋律やリズムは、音楽を構築していく上で重要な役割を担っている。ピアノのソロパートにも、ヴィルティオーゾ的な要素がふんだんに盛り込まれており、ピアニストのレパートリーとしても、広く親しまれている。
大きくは2つの楽章から成るが、それぞれがさらに2つの部分にわけられているため、実質は、4楽章構成とも考えられる。ただし、草稿では、この曲は単一楽章で作られており、休みなく演奏されるものであった。演奏に際してはそのことにも留意すべきであろう。
演奏所要時間は約30分。
第一楽章:(第一部分)アレグロ・モデラート ハ短調 4分の4拍子
変奏曲形式によっており、最初に弦楽によって示される主題(循環主題A)が二つの変奏をみせる。のちに現れる主題とともに、これらの主題は「循環主題」として曲に統一を与えている。第一変奏部分では、弦楽とピアノで交互に変奏が繰り返される。第二変奏部分は管楽器が加わり、より華やかな変奏になる。同じ主題でも、その性格が、光の当て方によってさまざまに変化しているのが面白い。コーダは次の部分への推移部としての役目をおっている。
(第二部分)アンダンテ 変イ長調 4分の4拍子
3部形式。幻想的な導入部分につづき木管で奏されるのが循環主題Bである。ピアノとクラリネットで交互に演奏されるのが副主題にあたるの循環主題Cで、これら3つの主題が中心となって曲を形成していく。
第二楽章:(第一部分)アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ短調 4分の2拍子
スケルツォ的な性格をもっている。おどけたように下降するピアノに、管弦楽が応答する第一主題。第二主題は8分の6拍子、循環主題Aがリズミカルに変形されたものである。ユーモアがあり、管弦楽とピアノの内面的活気に満ちたやりとりが魅力的な一曲。コーダが経過部の役割を果たし、第二部分へと続く。
(第二部分)アンダンテ 4分の4拍子―アレグロ ハ長調 4分の3拍子
この第二部分はアンダンテとアレグロにわけられている。アンダンテは、三分程度で、アレグロへの序奏部的な性格をもっている。循環主題Cのフーガ的な展開をみせ、循環主題Bが想起されたのち、ピアノの華やかなカデンツァとなり、アレグロを導く。
アレグロにおいても循環主題が活躍する。第一主題は循環主題Bを変形させたもので、非常に明快で印象に残る旋律である。第二主題は循環主題が用いられたものではないが、はぎれのよいリズムは曲に活気を与えている。巧みな展開の手法に加え、この曲においてはピアニストのヴィルティオーゾ的な見せ場が沢山ちりばめられており、非常に華やかで楽しめる。サン=サーンスの作曲家としての、またピアニストとしての力量が感じられる一曲である。