サン=サーンスは、幼い頃からピアノやオルガン演奏、作曲において天才的な才能を発揮しており、モーツァルトとも比較されることの多い作曲家である。5曲のピアノ協奏曲を残しているが、これらは彼のピアノ独奏曲よりも、演奏される機会は多い。
作曲において、彼はとりわけ様式の純粋性、形式の完璧性の追求に力を注いでおり、伝統的なスタイルをもつ音楽への傾倒が強くみられる。当時のパリにおいて、そのような傾向はあまり好まれなかった。サン=サーンスは1864年(当時29歳)、作曲コンクールに挑戦するも、一位であるローマ大賞を得ることはできなかった。
《ピアノ協奏曲 第1番 ニ長調》は、その翌年1965年に作曲された作品であるとされる(1858年に作曲されたという説もある)。彼の数ある協奏曲の中では、特に習作的な性格が強い作品である。全3楽章。演奏所要時間は約25分。
第一楽章:アンダンテ―アレグロ・アッサイ ニ長調 4分の4拍子
トロンボーンによる呼びかけにはじまり、のどかな雰囲気が広がる簡潔な序奏。
ピアノ・ソロがアルペッジョで華やかな彩りを添える。ピアノの高まりに導かれて、アレグロ・アッサイへ。オーケストラで奏されるのがこの曲の第一主題、若々しいエネルギーを感じさせる。第二主題はイ長調。華やかな提示部を経て、展開部へ。ここでは主にオーケストラが主題の展開を、ピアノがアルペッジョで装飾、誘導していく形で曲が進む。最後は再びニ長調に戻り、力強く曲を閉じる。
第二楽章:アンダンテ・ソステヌート・クアジ・アダージョ ト短調 4分の4拍子
オーケストラの伴奏にのせてピアノで歌われる第一主題。憂いを帯びた旋律が表情豊かに歌われる。アルペッジョとトリルが美しいピアノのカデンツァは、甘く幻想的な響きをうみだしている。アッサイ・ドルチェでオーケストラによる第二主題が示され、それをピアノが受け継いでいく。
第三楽章:アレグロ・コン・フォーコ ニ長調 2分の2拍子
雰囲気を一変させて、決然とはじまる第三楽章。第一主題がピアノからオーケストラに受け渡され、軽快なリズムをもって曲は進行していく。自問を繰り返すような第二主題で、勢いは弱められるが、オーケストラとピアノのリズミカルな掛け合いの中で活気は増してゆき、再び第一主題へ。オーケストラが歌う第二主題にのせて、ピアノが奏でるアルペッジョは、華やかな響きをつくり、クライマックスへの足がかりになっている。最後はフィナーレにふさわしい高揚と華やかさをもって堂々と曲を閉じる。